ネタ帳
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ワンダーランド住人との絡みばっかり
「・・・息災で何よりです毛利殿」
久しく目にした逢隈の娘は以前受けた印象と大きく異なる気がした。その双眸の奥にひた隠された昏い光はまるで飢えた獣ように見えた。この娘がこんな表情をするようになるとは思わなかった。「貴様か」。そんな彩俐を一瞥して短く言葉を返す。
以前、この安芸の地に訪れたのは織田包囲網の誘いの時だった。肉親を亡くした若い身で山城の国を束ねあげた彩俐の目は冷静に元就を見据えていた様に思う。それが今はどうだ。才気に溢れた光を失わずにいたあの漆黒の瞳は隠しようの無い憎悪を堪えていた。
つい先日、徳川が石田軍の居城たる大阪城に侵攻したのだと聞く。その際に豊臣の軍師である竹中半兵衛の正妻が逝去したのだと聞く。最後の肉親を亡くした事実がおそらくは彩俐を歪ませたのだろう。が、この戦国の世では親や家族と死に別れることは少なくない。それを思えば『その程度』で己の心を歪ませた彩俐の脆さに武将らしからぬを感じる。いち武将といえど所詮は女子ということなのか。
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「再三申し上げていた件の答え・・・貰いに参上しました」
答如何では戦うことも止む無し。その目は確かにその意思を示していた。見据えた怜悧な琥珀色の双眸にそこはかとなく戦慄を覚える。これが毛利の当主であり安芸を治める者の貫禄ということだろう。だがそれに圧されるまでには至らない。なぜならば彩俐もまた一国を治める当主だからである。
「我が石田に従えと申すのか」
不意に空気が振動した。肌をぴりぴりと刺す圧力にそれが毛利元就の覇気なのだと悟り、彩俐は僅かに目を細めた。その同盟――否、取り方次第では毛利が石田に下るとも取れる。それが意に沿わないのだろう。日輪の申し子だと自らを称するこの男にとって誰かと組むことは屈辱とまではいかずとも誇りを汚される行為なのかも知れない。
「従えとは言わない・・・ただ、有事には手を貸すだけで構わない」
それだけで十分だ。今は無き豊臣の時代を黙することで自国を護った毛利は確かな力を蓄えていた。一時期は家康によって瓦解しかけた豊臣を束ね直した石田軍は彩俐の目から見ても危うい面がある。増強した毛利を東軍に渡すことは避けたい。そもそも彩俐が遣わされた理由はひとつで、毛利を西軍に引き入れることである。
「それに何の益があると申すのだ」
何の利益にもならないことをするのは無駄だ。