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【Missing】その後。墓守領にてAに振り回されたりとかほのぼの。



――― 「美術館へ、ようこそ!」。


そう言って美術館を訪れた人々を歓迎する。最初はぎこちなかった笑顔も慣れるまでそう掛からなかった。
難しい事は特に無い。入館券をもぎるのが仕事。顔馴染みの常連の閲覧客も少しだが増えたように思う。
常連客の中には彩俐に案内を頼む人も居て、最近では美術館の展示品に関する知識も学ぶようになった。


「おつかれ。休憩入って」


肩を叩かれて振り返るとそこには同僚の姿。その言葉に「ありがとう」と、礼を告げて交代させてもらった。
この生活にも幾分か慣れた。というより、元々合う仕事だったというべきか。他者と携わるのは少し楽しい。


あの頃と比べること自体がナンセンスだろう。だけど、彩俐にとって長く存在したのは悲しきかなあの頃だ。
思い出すと今も何とも言い難い気分に陥る。此処に居ることは償いだと言われた。だから受け入れている。
もしかしたら同僚の知人や家族をこの手に掛けたかも知れない。人に会う度にそんな気がして怖かった。


だけど慣れとは怖ろしいもの。


気付けばここでの生活が自分にとって当たり前にすり替わっていた。与えられた仮初の日常だというのに。
同僚たちと語らう取り留めない時間も美術館を訪れる人々の触れ合い。どれもが愛おしくて堪らなかった。
だからそんな日常を与えてくれたジェリコにも、最初の切欠を与えてくれたエースにも感謝しても足らない。


ただ一つ、――アリスに会えないことは残念でならないけれど。


食堂に着いて、メニューを眺める。今日のオススメは確かAランチだった筈だ。竜田揚げがとても美味しい。
「おばちゃんAランチ残ってる?」と、尋ねた。返事を待ちながら食堂を見渡すと珍しい人物を視界に捉えた。
代金をカウンターに置き、少し離れることを伝えからそちらに近付く。顔を見るのは久し振りかも知れない。


「エース」


名前を呼ぶと彼は顔を上げて「やあ」と、気さくな挨拶で答えてくれた。その傍にはユリウスとジェリコの姿。
珍しい組み合わせだと思う反面、大方、ユリウスは引き摺られてきたのだと思う。二人に小さく頭を下げた。
ジェリコに「彩俐もここで食べていけよ」と、相席の許可を貰った。Aランチのトレーを受け取って席に着いた。


「もう慣れたのか?」


と、エースの隣で唐揚げを頬張っている彩俐にジェリコがテーブルに肘を付きながら尋ねた。仕事の話だ。
投げ掛けられた質問に最初は目を丸くするものの直ぐに小さく笑って頷いた。人と関われる仕事は楽しい。


「こないだ、常連さんに館内の案内頼まれたんよ」


と、嬉しそうに答える。流石にまだ美術館内を案内して回れる程の知識量は無い。しがないチケットもぎだ。
だけどそうやって声を掛けてくれる常連さんが居るのは素直に嬉しい。頑張ろうという気持ちが増してくる。
自然と頬が緩んだ。年相応に笑うその姿にジェリコは人知れず安堵する。彩俐のあるべき姿はこうだ、と。


「・・・で、仕事にかまけてこないだはキャンセル?」


「ふーん」と、然程興味無さそうに呟きエースが彩俐の更に残された唐揚げを攫った。「あ!」と、小さな声。
「残しといたのに!!」と、不満の声。最後に食べようと置いておいた唐揚げを取られたら不満の声も出る。
それに前回、会えなかったのは仕事が立て込んでいただけではなくエースが迷って遅刻したことも原因だ。


「いや、最初に遅れて来たんエースやんか」


悪いとは思うがこれに関しては相子だと思う。確かにあんな直ぐ時間帯が変わると思わなかったけれども。
何も悪びれないエースに対して軽く頭を小突いた。小さく「痛!」と、呟くのが聞こえたが唐揚げの報いだ。


「そりゃエース・・・遅れて来るお前が悪い」


「女、待たせんなよ」と、呆れた様にジェリコが援護射撃してくれた。そもそも迷わなければ問題無かった。
誰も援護してくれない事にエースはやや拗ねた様に視線を背けた。「・・・久し振りだったのに」と、小さな声。
隣に居た彩俐が辛うじて拾えた位だからジェリコとユリウスには聞こえてないだろう。一瞬、目を瞬かせた。


エースの言葉を理解した瞬間、顔に熱が篭る。今までの生活と日本人の特性のおかげで目立たない筈だ。
と、思いたかったが、目の前のジェリコと目が合った瞬間。彼は大人の余裕を醸し出しながらフッと笑った。


(・・・・・終わった)


目を逸らした


バレてる。完全にバレてる。幸運にも隣のユリウスにはバレていないようだがジェリコには完全にばれてる。
からかうわけでもなく温かく見守るつもりのようだが正直そっちの方が恥ずかしいと口を大にして言いたい。
が、当然の事ながら伝わる筈もない。溜息混じりに、そして八つ当たり半分にもう一度エースをはたいた。


 


「・・・ま、まあ、仕事は楽しんでるよ」


「気のええ人ばっかりやし」と、話題を変えようとそう口にする。気さくな同僚が多くてやり易いのは事実だ。
未だに完全に治り切らない足を気遣ってもくれる。それに対して少なからず申し訳なさは募るのだけれど。
良い仕事環境だと言える。まあ一つ困ることがあるのは女性従業員の恋話に付き合わされる事くらいか。


最近だと話題の標的にされて、エースの関係をとやかく言われるのが少しばかり答えに困ってたりもする。
関係も何も別に付き合ってるわけではない。詰まる話、彼女達の期待するものは何も無いわけなのだが。
如何せん女子というのは良くも悪くもしつこい。一度興味を持ったら満足いく回答を得るまで引かないのだ。


「ああ、そういやこないだ囲まれてたな」


「で、本当のトコはどうなんだ?」と、したり顔で聞くジェリコに笑顔のまま「何の話ですかおじさん」と、一言。
「おじさんはねぇだろおじさんは」と、やさぐれるジェリコ。だが野暮な質問をしたのは間違いなくジェリコだ。
素知らぬ顔をしていると不意にユリウスが「何の話だ?」と、首を傾げた。別にここで食い付かなくていい。


「あー・・・えっと「そういえば、こないだ『彩俐と付き合ってるのか?』って聞かれたけど」」


曖昧に濁そうと言葉に困ってたらいきなりエースが爆弾発言をかましてくれた。ユリウスが珈琲を噴いた。
彩俐も飲みかけていた紅茶を危うく噴き出しそうになった。目の前に座るジェリコは腹を抱えて笑っている。
そんなジェリコの足をテーブルの下で蹴っておいた。「・・・お前たち付き合っているのか?」とユリウスの声。


平静を装ってるが多分気付いてない。ユリウスの目は本気だった。回答次第ではちょっと危ない気がする。
始末屋として培った危険察知能力が警鐘を鳴らしている。いや、そもそも付き合ってないし!無罪だし!!
子を持つ親とはかくも怖ろしいものかと身を以って学んだ気がする。取り敢えず弁解しなければいけない。


「付き合ってない・・・ですよ?」 「え、付き合ってないの?」


弁解したつもりが隣から「え~」と、不満の声が聞こえる。隣を一瞥して後悔した。何で怒ってるんだお前。
どこか不機嫌そうな顔のエースに頭痛を覚えた。そもそも付き合おうと言われた覚えもないのにどうして。
「彩俐。きみ、俺のこと弄んだのか?」と、本気なのか冗談なのか。誤解を招く発言は止めて欲しいものだ。


「お前・・・こいつを弄んだのか?」


と、地面を這うような低い声。反射的に彩俐がびくりと肩を揺らす。(ほら、誤解招く人出ちゃってるし!!)。
親馬鹿という生き物はまったく手に負えない。彩俐はブンブンと首を横に振ってユリウスの言葉を否定する。
救いを求めて視線を彷徨わせるとジェリコと目が合った。が、先程の「おじさん発言」のせいか援護がない。


(このxxxxxxx野郎!!!!)


内心 罵る


とは言え、援護が期待できない以上は自力でどうにかするしかない。「いや誤解ですって」と、窘め始めた。
だが愛しの我が子を手玉に取られた上に弄ばれてお冠のユリウスには何を言っても届かない。面倒臭い。


「違う」と否定したところで「ならばどうしてこいつの口から『付き合ってる』と出てくるんだ」と容赦ない反撃。
それに関しては双方の誤認であり「付き合った覚えはない」と、強気で答えればエースのがっかりした顔。
ちょっとその顔やめてくれないかな。罪悪感募るんですけど!やはり相手が二人だと圧倒的に分が悪い。


「いや、だから・・・・・そもそも何でエースは付き合ってると思ったんさ?」


付き合ってるとか付き合ってないとか正直どうでも良くなってきた。何でこんな事で論争しているのだろうか。
取り敢えず落ち着け時計屋。「だってキスした仲だろ」と、さらりと爆弾発言テイク2。カッと頬が赤く染まる。
だが次の瞬間、更に威圧感の増したユリウスに固まる。「ほぉやるじゃねぇか」と、楽しそうなジェリコの声。


「まさか忘れたとは言わないよな?」


「あんなに何回もしたのに・・・」と、エースがこちらを一瞥する。こいつ確信犯だ。顔が引き攣りそうになった。
確かに致し方無く口移しという形で水を補給するという事態は起こった。アレをカウントするなら仕方ない。


が、


「事情は正しく説明してよ!お願いやか・・ら・・・!!」


声を大にしてそれを話すなら正しい事情を説明して欲しい。間違ってもそんな誤解を招く発言は宜しくない。
ゴンッとテーブルを叩く鈍い音に言葉が途切れる。一定の間隔でゴンッゴンッと何かを打ち鳴らす音がする。
おそるおそると見たくはないが、無視を通せばそれはそれで後が怖ろしいように思う。そちらに目を向けた。


ことを激しく後悔した。


どこから出したのやらユリウスの手にはスパナ。それでテーブルを叩いている。見ている分にかなり怖い。
事情もとい言い訳を聞くつもりは微塵も無さそうだ。理不尽と思ったがこの世界は最初から理不尽だった。
彩俐が返答を誤った暁にはあのスパナで殴られるのはテーブルじゃない。いくら石頭でもスパナは無理だ。


「もう一度聞くが、お前達は付き合っているのか?」


「あ、あのユリウスさん・・・?」と、おそるおそる尋ねた彩俐の言葉を無視してユリウスは憮然とそう尋ねた。
これに対し「付き合ってません」と答えられる猛者が居るなら会ってみたい。少なくとも彩俐は無理だった。
「おい、ユリウス。流石にスパナは・・・」と、流石にスパナで殴るのは不味いと思ったのかジェリコが宥める。


が、既に遅い。


「今この瞬間から謹んでお付き合いさせて頂きます・・・・・ハイ」


先に(心が)折れたのは彩俐の方だ。付き合ってると言っても怒られるだろうし、付き合って無くても同様だ。
ならばその場凌ぎであってもこう答えることがベストな気がする。むしろそうであって欲しいと切実に思った。
どうして、娘さんを僕にください!みたいな状況で彩俐がユリウスに頭を下げているのか、甚だ疑問である。


さっきから何のフォローも入れないエースは何をやっているのかと目を向けた。ら、めっちゃ嬉しそうだった。
一体何がそんなに嬉しいのか分からない。というか、もしかしてこの言葉を言わせる為に言い出したのか。
不満なのか「まだ早い・・・」と、呟くユリウスに対しエースは彩俐の肩を抱き寄せ満面の笑みで口を開いた。


「そんなに脅さないでやってくれよ。合意の上だから問題ないだろ?」


 

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