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【Missing】のその後。アリス→帽子屋領滞在 夢主→墓守領滞在
夢主は元マフィアの構成員で始末屋をしていた+アリスは同ファミリーで一緒だった。




「彩俐が決めたならもう何も言わねぇよ」


そう言ったものの、ジェリコの目はまだ物言いたげだった。「だがな」と、案の定、溜息混じりに言葉が続く。
それを口にするか少し悩んだようだが、腹を括ったらしい。とはいえ、どんな言葉をかけられても覆らない。


というよりも、覆すわけにはいかない。


単純な抗争だけなら見て見ぬフリを通したことだろう。もう自分は裏社会で生きる人間では無いのだから。
が、アリスが関与しているとなれば話は別だ。それに関して帽子屋と協定を結ぶ事は少し忌々しいけれど。
もう会う事は無いと決めている。それでも、彼女が危険に晒されるというなら無視を貫くわけにはいかない。


『あいつの気持ちも少しは察してやれよ』


――ジェリコの言葉。


その意図が理解できないほど鈍くは無い。が、だからと言って分かりましたそうします、とも答えられない。
彼に対する後ろめたさはあるけれども、これだけは譲れないのだ。アリスが危険に晒されている今回だけ。


今回だけは、譲れない。


(・・・・・ごめん)


少し 思う


思ったところで、覆すつもりは無いのだから無意味だ。が、彼の気持ちを踏み躙った後ろめたさはあった。
だけど譲れないのだ。だから今回だけは我儘を貫かせて欲しい。どうしても無視出来なかったことだから。


 


「おい。聞いてんのか、アンタ」


三月ウサギ、エリオット=マーチが苛立ちを隠しもせず吐き捨てた。ぼんやりとしていたのが気に障ったか。
「絡むなよ」と、ジェリコの声。それに対してまたエリオットが噛み付く様に声をあげる。彩俐はフッと笑った。


今頃、彼はどこを旅しているのだろう。


顔を合わす機会も無いまま、彩俐は帽子屋屋敷の邸内にて話し合いの場に混じっていた。緊迫した空気。
張り詰めた空気に少しだけ懐かしさを覚える。『メリー』だった頃、幾度も話し合いの場に立ち合っていた。
壁に凭れ流すように無意味な会合に耳を傾けていた姿勢は今も変わらない。それが気に障ったのだろう。


「・・・聞いてるよ」


そして、答える。だから早く話を続けろ、と、暗に告げる。相手はただの顔無しファミリーだ。あの頃と同様。
それを何故こうも進行せず渋っているのかと言えば、アリスが人質に取られているからなのか、はたまた。
ちらりと、同盟ファミリーのボスに視線を向ける。黒いシルクハットが特徴的な、帽子屋ブラッド=デュプレ。


この男の今回のゲームに対する暇潰しもしくは余興が行動を遅らせているのか否か。だとしたら疎ましい。
不意にブラッドの視線が彩俐に向いた。一瞬だけ視線が交錯するが、先に逸らしたのは彩俐の方だった。
流石はマフィアのボス。それも、役無しでなく、役持ちのボスなのだから相応の貫録は持ち合わせている。
ジェリコにも言える事だが、この二人に仕える構成員はさぞファミリーを誇らしく思うだろう。自分とて仮に。


(やめよ・・・)


不毛だ


もう自分はマフィアでは無い。あの頃に戻りたいとは決して思わない。否、既に今それに近い場所に居る。
ジェリコがどこか言い難そうに声を掛けてきた時に察してはいたのだ。「嫌なら言えよ」と、彼は優しかった。
あくまで帽子屋が言い出しただけだ、と。決定権は彩俐にあるのだから、望まないなら選ばなくて良い、と。


が、それでも選んだのは彩俐自身だ。帽子屋がどんな意図で声を掛けたのかは、知らない。が、確信犯。
アリス関連ならば彩俐は絶対に断らないと分かっていて、ジェリコを通じて話を流した。本当に厭味な男だ。
今もこちらの反応を愉しむように不敵に笑うその姿に苛立ちが止まない。まるで喧嘩を売られている気分。


「やる気がねぇなら出てけよ。ブラッドから声を掛けてもらえたからって調子に乗ってんじゃねぇ」


薄々と敵視されている事は感付いていたが、あからさま過ぎて笑える。アリスの事がそこまで心配なのか。
否、それだけに限らずブラッドから声が掛かったということも含めて、彩俐の何もかもが癪に障るのだろう。


「一言もそんなこと言ってへんやろ」


「勘違いで絡まんといてくれへん」。うざったい、という言葉は辛うじて堪えた。が、吐き捨てる声は冷たい。
反抗的な姿勢にさらにエリオットが噛み付こうとするが「エリオット」と、ブラッドの牽制する声に歯噛みする。
同時にジェリコも「彩俐も喧嘩売るんじゃねぇよ」と、窘める。が、どちらが先に売っているのかという話しだ。


「彼の高名な始末屋殿が協力してくれるんだ」


「失礼の無い様にな」と、エリオットを窘める声。それは彩俐を立てているようで、挑発しているようなもの。
場に居た者は瞬間的に張り詰めた肌に感じた。が、場が荒れる事は無く、彩俐はブラッドを一瞥するだけ。


「・・・元、って付けてくれへん?」


「一応、引退してるんで」と吐き捨てる。『メリー』はもう居ない。ブラッド=デュプレは何のつもりなのだろう。
そして気怠さげに溜息を零した。嗚呼そうか、単純に気に入らないだけだ。アリスの親友たる彩俐の事が。
女相手に帽子屋ともあろう者が惜しみもせず嫉妬するなんて滑稽だ。笑ってしまいそうになるのを堪える。


そして、ブラッドに視線を向けた。翡翠色の双眸と目が合った。今度は逸らすことはせずににこりと笑った。
帽子屋が彩俐をどう認識していようと関係無い。今の自分は始末屋では無い。もう『メリー』は居ないのだ。
否、完全に存在を消し去ることは出来ない。彩俐が生きてる限り『メリー』は存在する。亡霊のようなもの。


だから、否定はしない。


「その辺にしとけよ帽子屋」


「・・・これ以上、墓守領(うち)の連中を煽るんじゃねぇよ」と、仲裁するように頭を掻きながらジェリコが口を開いた。
ジェリコの言葉に振り返って彩俐は目を丸くした。同盟関係だから辛うじて攻撃態勢を取ることはなかった。
だが、それも協定が無かったらどうなっていたか分からない。帽子屋に対する不快感が目に見えて分かる。


「ああ、すまないな」


「嘘が吐けないもので」と、平然と言ってのけるブラッドに心の中でどの口がそれをほざくのか、と、思った。
だがそれ以上の言及は時間の無駄だ。幾ら余るほど時間が存在する国とはいえアリスの命は限りがある。


「・・・それで?」と、続きを促す。嫌がらせの為だけに呼び出したのではないだろう。それだけなら撃ちたい。
彼の高名な帽子屋が愛するアリスを助けるために画策するのだから中途半端な計画を練ってはいない筈。
ここは自分が大人になって嫉妬深い帽子屋ファミリーのボス、帽子屋の高説を聞かせて貰おうではないか。


 


「喧嘩売る為に呼び出したわけでもないんやろ?」


「まあ買い取りは拒否させて貰うけど」と、憮然とした態度。それを見てブラッドは口角を吊り上げて笑った。
「君を飽きさせる内容では無いつもりだ」と、漸く本題に入るつもりらしい。長い余興に小さく溜息が零れた。


 

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