忍者ブログ
ネタ帳
[57]  [56]  [25]  [55]  [54]  [53]  [52]  [50]  [49]  [48]  [47
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

サイト掲載分の続編。でも要手直し。



(う~・・・・・だるい)


机に突っ伏したい衝動


だるというか・・・やっぱり怠い。身体を繋いだわけでもなく、何度か指でイかされただけに過ぎないのだが。
否、それが原因だ。脱力感が尋常じゃない。どうにか気力と根性で仕事をこなしたが気を抜いたらやばい。
フワフワとする感覚からどうにか意識を引き戻すのも何度目だろう。自然と口から物憂げな吐息が漏れる。


ナイトメアのたどたどしい司会進行に耳を傾けながら、ぼんやりと視線を他領土に向けた。やる気ねーな。
どこも似た様なものだ。欠伸をしたり転寝してたり、完全に突っ伏して寝ていたり。確かに眠くなるけれど。
気怠さと睡魔を抗おうとはするが瞼が重く感じる。緩々と目を閉じそうになったが、不意に肘で小突かれた。
隣に座っているのはアリスだ。会合中に、真面目な彼女が珍しい。ゆっくりと目を開けてそちらを見遣った。


「・・・あんた一体、何したのよ」


と、声を潜めて少し呆れた風に聞かれる。その言葉に「え~・・・なに?」と、目を丸くする。ナニではない。
そう尋ねられたところで彩俐には思い当たる節は無い。いや、あった。が、その質問に彩俐は首を傾げた。


が、


不意にアリスが彩俐を見て小さく声をあげた。今度こそ呆れを隠しもせずに「・・・何やってんのよ」と、一言。
そして、手鏡を差し出される。アリスの意図が理解できないまま、それを受け取り彩俐は鏡を覗き込んだ。
アリスが見ていたのは首の辺りだ。そこに目を向けると虫に刺されたみたいに赤くなっている痕が数か所。


「!!」


流石にそれが分からない程、彩俐も間抜けでは無い。脳裏を一気に駆け抜けたのは給湯室での出来事。
反射的に首元を押さえた。よほど動揺したのか、その拍子にガタンと机が揺れて会議室内に響き渡った。
表情に出ない事は幸いだが、盛大に注目を浴びてしまった。「どうかしたか?」と、ナイトメアに尋ねられる。
それに対し苦し紛れに「・・・寝惚けました」と、恥を忍んで言う。それ以上の言及は無く会議の進行が続く。


「・・・動揺しすぎ」


声を潜め呆れつつアリスが言う。そもそも動揺させることを言ったのはアリスじゃないか。恨みがましい目。
だがそれを清々しいほどに無視してアリスは視線をナイトメアに向けたまま「エース?」と、脈絡も無く問う。
否定したいが悲しいことに事実で否定出来ない。しかもアリスの中では既に確信して尋ねているのだろう。


沈黙は肯定。それで満足したのか、今は会議中と言うこともあってアリスはそれ以上は聞いてこなかった。
不意に視線をハートの城の席に向けると話題の人物と目が合った。にこりと微笑んだ男に薄ら殺意が湧く。
さらに視線をずらすと今度はビバルディと目が合った。彼女の口角がくいっと吊り上がって、妖艶に笑った。


『 あ と で 』


そして、唇がそう形作る。


(あー・・・・・おわったな、私)


笑顔が引き攣る


女性陣の聡明さには脱帽する。油断していたとはいえ、動揺を露わにしてしまった自分も悪かったけれど。
にしても最悪だ。何も目に見える場所に残す必要ないのにあの駄犬め。馬鹿だとは知っていたがここまで。


そもそも、許した覚えは無い。(・・・いくらなんでもやり過ぎやろ)。悪びれも無い姿勢に悪意しか感じない。
何が気に食わなかったのか知らないが八つ当たりされる身にもなって欲しい。その被害は尋常ではない。
謝罪はおろか反省の色がまるで見えない。それどころか、満足げな顔をしているところがまた腹立たしい。


嫌がらせもほどほどにして欲しい。


 


無事に、というべきか。特に話が纏まることもなく今回も会合を終えた。席を立った瞬間、呼び止められる。
振り返るとそこには主催者であるナイトメアの姿。先程の出来事に関するお咎めかも知れない。面倒だな。
グレイは席を外しているのかそこにはナイトメア一人だけ。彩俐に向けた視線はやや呆れが見受けられる。


「こほん。・・・口を出す気はなかったが、場所は考えた方が良いぞ」


「見られたらどうするんだ」と、声を潜め周囲に気を配りながらナイトメアが言った。突拍子もないない言葉。
最初は驚いたがすぐに言わんとしていることが分かった。が、それをまさか彼に指摘されるとは思わない。
弾かれた様に顔を上げてナイトメアを見る彩俐の頬は今度こそ赤く染まっていた。動揺を隠し切れてない。


こうも反応されると可笑しくて堪らない。


そもそも、彩俐は普段の大胆さに反して極度に恥ずかしがり屋な一面がある。そこを刺激すれば容易い。
まあ、普通に考えて痴情を突っ込まれたら誰でも狼狽える。それは他人に見せるべき面では無いからだ。
領主たるナイトメアにとって、クローバーの塔内で起きた事を把握するのは容易い。先程の出来事だって。
それは彩俐も承知だ。だからこそ強く抵抗を示したのだろう。結局のところ騎士に抗える筈も無いのだが。


(・・・それにしても、)


溜息


まさか想いを寄せる少女と他の男との情事の場面を見掛けるとは流石にナイトメアも予想していなかった。
あの歪んだ騎士のことだ、おそらく見せつけるつもりだったのだろう。彩俐も厄介な奴に好かれたものだ。
だが求められる事に対して拒まないことを踏まえると彩俐も嫌なわけではないらしい。そこがまた憎らしい。


「・・・覗き夢魔」


不可抗力だといっても通じないだろう。ナイトメアの有り難いアドバイスに対して彩俐はぽそりそう呟いた。
そしてフイッと顔を背けたが髪の隙間から見えた耳は相変わらず赤い。平静を保とうとしているが全然だ。
動揺が止まないのか、心の声が駄々漏れ。かなり焦っている。それと、あとは騎士に対する暴言の数々。


「いいじゃないか。付き合っているんだろう?」


恋人に求められたのなら応えても道理からは外れない。いつぞやにグレイが彩俐に尋ねたところの回答。
相手がエースだということは悩ましいが、それでも付き合っているなら身体の関係に至ってもおかしくない。
ナイトメアの言葉に彩俐の心が不意に読み辛くなった。どうやら頭が冷えたらしい。ちらりと視線を向けた。


「・・・・・付き合ってへんよ?」


まだ人の残る会議室内での喧騒。だがそれが気にならない程、その言葉はハッキリとナイトメアに届いた。
向けられた漆黒の双眸は揺らぐこともなく静かにナイトメアを見つめる。「ああ、ちょっと違うか」と、笑う声。
その言葉にナイトメアは耳を疑う。付き合っていないというなら、二人の関係が見えてこない。否、見える。


見える、が――。


「付き合いはある。でもたぶん、ナイトメアが思っている付き合いちゃうよ」


と、肩を竦めて笑いながら彩俐は言った。ナイトメアとの短い遣り取りでそこまで悟ったのかやはり聡明だ。
「グレイに似たようなこと聞かれたんよね」と、考え込む仕種。あれが誤解を招いた。聡明だが愚かな子だ。
なんてことない風に言うが突っ込みどころが満載だった。「いや、ちょっと待て。それは・・・」。顔が引き攣る。


恋人同士なら関係を持っていてもおかしくない。しかし、付き合ってないというなら、それはそれで問題だ。
他人ならいざ知らず。自分の領土の者で、なにかと目を掛けている少女が爛れた人間関係を築いている。
どこをどう間違えてそうなったのやら頭が痛む。彩俐の心はグレイよりも読み辛い。静かで何も聞こえない。


「・・・あまり自分を安く切り売りするなよ」


としか、ナイトメアには言えなかった。彼女が何を思って騎士とそういう関係を持つことを選んだのだろうか。
視線を向けると彩俐は肩を竦め笑った。ナイトメアらしい忠告だがもう遅い。それに勿体ぶるものでもない。


「犬をしつけるにも手間が掛かるんやって」


「ほんま・・・駄犬なんやから」と、どこか遠くを見つめて呟く。過るのは赤色。飼い慣らすことが困難な番犬。
今も変わらずどうしようもない駄犬ということは否定しない。それでも最初の頃は本当に手間が掛かった。
ことあるごとに褒美を強請る馬鹿犬。それを拒否出来なくなっていたのはいつからだろう。思い出せない。


 


"クローバーの森はあまり好きじゃないわ。・・・不安を煽るから"


――そう言ったのは、アリス。


彩俐もそれは否定しない。余所者にとってドアの森は毒でしかない。迷う者を惑わす声。そして狂わせる。
それが酷く耳触りで疎ましかった。迷ってなんていない。元の世界に戻ると最初から答えは定まっている。


聞こえない。


聞こえて堪るか。惑わす声なんて聞こえる筈ない。それを確かめたくて、そうだと思い込みたくて、訪れる。
が、実際は聞こえてしまうのだから救えない。森を訪れてその声を耳にする度に渇いた笑いが浮かんだ。


『行きたいところへ行けるよ』 『開けて』 ―― 声が聞こえる。


(・・・どこに?)


わらわせる


どこにも行ける場所なんてないのに一体どこに行けると言うのだろう。『・・・あけて』。声が耳元で聞こえる。
無意識にドアノブに手が伸びた。開けてもどこにも行けない。行ける場所なんてない。ならどこに辿り着く。
辿り着く場所がない者がドアを開けたところで何も変わらない。変われない。だからいつまでも救われない。


「駄目だぜ」


不意に後ろからドアノブを掴む手を押さえられた。灰手袋が目に映る。彩俐はゆっくりと声の主を振り返る。
「どこに行く気だった?」と、彼は爽やかに微笑んでそう尋ねた。それに応える様に彩俐も小さくわらった。


「いかないよ、どこにも」


空っぽの声。何処にも行かない。否、行けない。呼び止めて貰えたことを嬉しく思う反面、どうしてと思った。
優しい手付きでドアノブに掛けた手を解かれる。そして、エースは彩俐の身体をくるりと反転させて向けた。
「ならよかった」と、笑う姿はどこか空虚で自分とぼんやり重なる。客観的に見ればこれほど疎ましいのか。


「こないだの件について返事をしようと思って」


爽やかな笑顔を絶やすことなくエースが口を開いた。こないだの件というのは『番犬』の話についてだろう。
どんな答えを用意して来たのか知らない。選ぶも選ばないもエースの自由で彩俐が口を出す事ではない。
続きを促すように見上げるとエースの紅い双眸と目が合った。綺麗だけど、どこか不安を煽る色だと思う。
「・・・あぁ、思ったより早いな」と、笑みを形作る。下手を打てば、エースの立場をさらに危うくさせる内容だ。


「で?」


どんな答えでも構わない。彼がこの手を取らないのなら、また別の手段を考えるだけ。不利にはならない。
短く返すと不意に「どっちがいい?」等と爽やかな笑みを張り付けたまま言った。「・・・はぁ?」。怪訝な顔。
質問に質問で返すのはマナー違反だ。この男、時計屋と離れたことでついには頭までおかしくなったのか。


「愚鈍な騎士には決めかねるぜ」


「だから君が決めてくれ」と正気を疑わざる得ないその発言に彩俐は目を丸くする。そして溜息を漏らした。
エースが決断を彩俐に委ねるということは、決して不利益は被らない。むしろ、好都合な展開だと言えた。


が、


「・・・出来過ぎた展開で気持ち悪いんやけど」


吐き捨てる様に言った。自分のゲームの展開にも関わって来る選択を他人に委ねるなんて正気ではない。
いくら愚鈍な騎士とはいえども現状を顧みれば彩俐が断らないことは分かる筈。そもそも持ち掛けた側だ。


喉から手が出るほど欲しい戦力。詰まる話、エースの立場が危うくなろうともその手を取らない理由がない。
だが、その後に何を要求されるのかと思うと末恐ろしい。そもそも冷静に考えるとこれは危険な賭けだろう。
エースを手懐けられたのはユリウスだからこそ成せた芸当。それが彩俐の手に負えるかといえば怪しい。


「何なら誓いでも立てようか?」


「どちらでも、望むままに」と、相変わらず笑顔を張り付けたまま言われ、喧嘩を売られているのかと思った。
腰に差した大剣を抜き片膝を折ろうとするエースに丁重に断りを入れる。「重いのは勘弁」と、肩を竦めた。
騎士が主君に忠誠を誓うシーンなら分かるが、これはそんな神聖なものではない。単なる契約に過ぎない。


「人に押し付けんのやめて。私、他人の責任なんて取れへんで」


冗談でも剣を抜いて片膝を付こうとしたエースの真意が読めない。何を考えているのやら。そう吐き捨てる。
最初に持ち掛けておいて何だがそこまで責任は負えない。エースが選んだ結果なら後は自己責任になる。


「押し付けてなんかないよ。それが答えだ」


押し付けでは無い、と、首を横に振りエースは躊躇い無くそう口にした。よくもまあぬけぬけと。眉を顰める。
最初から選択肢がJabBerWoCkyの番犬になるか、ならないか、の二択だけ。委ねたそれが答えだなんて。
それを押し付けでないと言うなら何だと言うのか。自分で選べない輩を受け入れる程、門は広くしていない。


断ろうと口を開いた瞬間、エースが続いて「俺が選んだんだから、彩俐が責任を負うことないよ」と、言った。
あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。何ひとつ選んでいない癖に。エースが彩俐の答えを受け入れるなら。
それが答えだと言うなら、何一つとして選んだことにはならない。やはり彼は愚鈍だと思った。愚鈍な騎士。


「・・・可能性を提示したんやったら一緒やろ」


溜息混じりに吐き捨てる。選ぶべき道を狭めている時点で共犯だ。エースが選んだという事にはならない。
誘ったのはこちらだが断るべきかも知れない。何を思って言ったのか知らないがいい方向には転ばない。
戦力としては痛手だが大丈夫。まだどうにでもなる。「悪いけど・・・」と、断ろうとした瞬間、エースが遮った。


「違うよ」――と、ただ一言。


「俺が、傍に居て欲しいんだ」


それは決して大きな声では無い。迷いなくはっきりと紡がれたその言葉に一瞬、彩俐は言葉を失って瞬く。
自然な動作で距離を縮め彩俐の手を取った。小さく肩を揺らしてから彩俐が困った様にエースを見上げた。


それを見てエースはフッと笑みを零した。いつもそう。言葉にすると困った様な泣きそうな表情を浮かべる。
その手を引いて自分の腕の中に落とすと彩俐が足掻くように身を捩るが力で勝てないことは理解している。
次第に脱力しエースの反応を待っている。そんな彼女の耳元でそっと囁いた。「・・・飼ってくれるんだろ?」。


「・・・・・放っておくのは後味悪いからな」


溜息混じりに言う。そして、突き飛ばす様にエースの身体を押すと不自然なほどに簡単に距離が開いた。
顔を上げると、どこか上機嫌でエースは再び彩俐に手を差し出した。「なら、帰ろうぜ」、と。手が止まった。
が、エースは首を傾げるだけで何も言わずにその手を取った。そんなエースに彩俐も曖昧に笑って応えた。


 


 

PR
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]