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第二話途中







嘗ては水で溢れていたエリア3・水猫。今は砂漠と化していた。まるで生気の感じられない死の村と化した故郷の姿。
幼少の頃は遊び場として使っていたその場所を今はキメラが徘徊している。蠢く黒い影。少女は目を僅かに細めた。
細められた金晴眼が捉えたのは徘徊するキメラ。黒い外套を纏った少女の姿をキメラが捉えた。奇声が響き渡った。


棍棒のような腕を振り上げて少女に攻撃を仕掛けようとする。その巨体からとても想像のつかない俊敏な動きだった。
その攻撃は少女を吹き飛ばすだろうと思えた。が、凪いだ腕には感触が無い。キメラは不思議そうに首を傾げて鳴く。


「・・・帰りな。ここはアンタ等が踏み込んでええ場所ちゃうねん」


少女の姿はそこになかった。気配に反応して振り返ったキメラの背後には少女の姿。少女は吐き捨てる様に言った。
反射的に攻撃を仕掛けた少女だがその攻撃は少女に届かない。金色の砂塵がアーチを描きキメラの攻撃を阻んだ。
同時に結界内から金色の光が溢れてキメラを牽制するように輝いた。だがキメラは怯む様子を見せず威嚇を続ける。


「キ・・・「・・・これやからなり損ないは嫌いやねん」」


再び奇声を発してキメラが攻撃を仕掛けようとした。鼓膜を震わせるキメラの威嚇の声はある種の耳鳴りに似ていた。
キメラの攻撃を避けるずに少女は指で陣を描く。親指と人差し指で描くのは三角形。光が迸りキメラの体を貫いた。
その場に居た複数のキメラが一瞬にして消滅する。残されたのは外套を纏った少女の姿のみ。ゆっくりとフードを外す。


灰となったキメラの黒がハラハラと雨のように降る。死の雨。少女の髪はその黒に負けない艶やかな濡れ羽色だった。
金晴眼の瞳は急速に色を鎮めて少女の本来の目の色に戻って行く。灰を受け止める様に少女は空に手を翳した。
少女は目を閉じて耳を澄ませる。黒い雨に混じって微かな音、とても小さな音が聞こえる。それはキメラの嘆きの聲。


イキタカッタ.........ウマレタカッタ.........アイシテホシカッタ.........アイシタカッタ.........シニタクナカッタ............
..........アイシテル.........イキタイ.........イタイヨイタイヨ.........ゴメンナサイ............
モウナカナイカタ.........アイシテ........ダキシメテ........ダイスキダッテイッテ...............


数多の聲が一度に少女の中に入り込んで来る。これを聞くことがカプリスキャットの役目だ。消え行くものの最期の聲。
だが少女はどうしても聲を聞く行為を好きにはなれなかった。何度聞いてもまるで慣れない。決して慣れることはない。
彩俐はもう何度もこの宿命を呪ったか知れない。人間になり損ねたもの達の聲は必ず最後にこう締め括られるのだ。


――【 ド ウ シ テ ウ ン ダ ノ 】 、と。


「私も聞きたいわ。どうして・・・殺すために産んだんやろーね」


今日もまた聞こえて来たキメラの呟きに困った様に肩を竦めながら彩俐はそう呟いた。どうしていつもこうなのだろうか。
キメラも、キメラを生み出した人間も、そしてキメラを弔う自分自身も。人間とはかくも愚かで無力な存在なのだろう。
キメラは人間のなり損ねではない。人間そのものだ。だから想いは潰えない。その輪廻から外れることが出来ないのだ。


カプリスキャットは人になり損ねたものの聲を聞くしか出来ない。その報われない想いを昇華してやるのが務めである。
だが果たして本当に昇華出来ているのかどうか、少女は甚だ疑問でならない。所詮は害獣。結局は消しているのだ。
その行為の果てに昇華されるのだろうか。消すということは殺すのと同義であり、"彼ら"は二度殺される事になるのに。
あんなにも生きたがっているキメラを殺して昇華する行為。本当にそれで報われない想いは解き放たれるのだろうか。


「・・・・・」


ふと少女は一軒の廃屋の前で足を止めその家を仰ぎ見た。顎ラインで切り揃えられた濡れ羽色の髪が零れ落ちる。
懐かしむように目を細めながら古びた家を見つめる少女の瞳が小さく揺れる。此処がすべてのはじまりの場所だった。
カプリスキャット、災厄の根源、ネコ、救世主。数多の名を持つ少女の原点であり、逢隈彩俐の唯一の帰る場所だ。


『彩俐』――そう呼ぶのは懐かしい声。


それは少女が未だカプリスキャットでは無くて"彩俐"だった頃。大好きな家族と幼馴染と共に過ごした愛おしい日々。
だが所詮は過ぎ去った時の話。もう7年前の出来事。今年で17歳を迎える彩俐に関係ない。"彩俐"は死んだのだ。
あの日、カプリスキャットになることを選んだ瞬間から幸福を望むのも感情すら全てを消した。人間であることを諦めた。


『ったく。お前って奴ぁ・・・方向音痴にも度が過ぎんだろーがよ。』
『迷うなら勝手に行動すんじゃねぇよ』
『まあまあ、二人ともその辺にしなよ。でも・・・心配したんだからね』


大好きな人に囲まれて幸せだったあの頃が脳裏を駆け巡る。大好きだった。大好きだったからみんなを護りたかった。
幸せになって欲しかったんだ。愛されていたし、愛していた。抱きしめられたあの温もりを未だに忘れることが出来ない。
だからまもれるならカプリスキャットになることさえも躊躇わなかった。否、あの頃は何も知らなかったのだ。その意味を。


カプリスキャットに甘い記憶は要らない。全ては世界を救済するために在り、個は必要ない。だから消し去ろうとした。
なのに人は理解しない。追われながらもキメラを昇華し続ける日々。終わらない絶望のサイクルは苦痛でしか無い。
果てしない孤独の中でネコ(カプリスキャット)はただ祈る様に生きた。生きていたかった"彩俐"の想いを胸に秘めひたすら終焉を望む。


「    」


無意識に口から零れた言葉に彩俐は思わず目を見張る。ハッとした様に肩を揺らして顔を上げた。今、何と言った?
この場所に近付いただけで過去に翻弄されるなんて。だから此処には近付きたく無かった。キメラの気配がなければ。
キメラはもう居ない。此処に居続ける意味だってもう無い。彩俐はフードをそっと被り直してその場を立ち去ろうとした。


――刹那。


「動くな」


首元に突き付けられた銀色のそれにちらりと視線を落とす。嗚呼、自分は刀を突き付けられたのか、と、ぼんやり思う。
続いて声の方にちらりと視線を向けるとすぐ傍で煙草の臭い。僅かに眉を顰めながら刀を向けた人物に目を向けた。
黒い隊服に帯刀。数少ない情報ソースを思い出して真っ先に浮かんだのは第3シェルターの吟魂国の特別機動隊。


「・・・何か?」


憮然。グローブ越しに刀を押し退けながら土方を見据えそう尋ねた。その漆黒の瞳は僅かに金色を帯び始めていた。
刀を向けられたことにより反射的に脳が警鐘を鳴らして能力を使用しようとした結果、瞳の色が変化しそうになった。
辛うじて止めたが完全にカプリスキャットである事を悟られてしまっただろう。内心小さく舌打つが、態度は相変わらず。


「エリア3は今、キメラの発生で近付く事は禁じられている。それにその目・・・」


土方の目は明らかに「お前がカプリスキャットだな?」と、訴えていた。だから何だと言うのだろう。捕らえるつもりなのか。
情報ソースを把握している彩俐からすればどの国もカプリスキャットを欲しているという事実はとうの昔に知っていたこと。
来織にある三つの国はどれも喉から手が出る程にカプリスキャットを欲している。手に入れたところで無意味だろうに。


「私がネコだとして、それがどうした?」


カプリスキャットは誰とも交われない。どこにも属することは出来ない。土方を挑発するように彩俐は鼻で嗤って言った。
暗に諦めて見逃せと含める。が、彼もお上の命令に背くことは出来ないらしい。面倒臭そうに髪を掻き、舌打ち一つ。
投げ捨てた煙草から紫煙が立ち上る。刀を構えた土方に彩俐はどうあしらうか思案しながら、面倒そうに息を吐いた。


最初に動いたのは土方。一気に距離を詰めて刀で凪ぐ。それを涼しい顔で受け止める彩俐の瞳が金晴眼に染まる。
「・・・余裕じゃねーか」。そう吐き捨てた土方に「だとしたら、大した事無いな・・・真選組も」と、無感情に吐き捨てた。
特殊な素材で作られたグローブは多少の攻撃なら軽く往なせるだけの硬度を誇る。それに傷を付けておいてよく言う。
瞳が金晴眼に染まったのも能力を使いグローブを護る結界を張ったからに過ぎない。その言葉に土方は眉を顰めた。


「アンタにゃ恨みなんぞねーが・・・・・幕府(おかみ)からの命令だ。一緒に来てもらう」


 

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