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プロトタイプCCの【LABYRINTH】の並行軸の物語です。
というか、逆トリで、夢主が13歳と更に若返ってます。
本編とは異なり、年齢が近いのでニコル寄りの物語になります。




「・・・・・留学生?」


何を言い出すかと思えば父が唐突にそんなことを言い出した。その話に当然ながら躊躇いを覚えてしまう。
それもまさか5人も同時に引き受けるなんて何を考えているのやら。既に母は了承しているとの事らしいが。
年頃の娘が居る家に男5人を引き受けるなんて正気じゃない。が、既に決まっているのならどうしようもない。


「一番下の子はりーちゃんと同い年だから」


「きっと気が合うよ」。そう言われても、あくまでそれは同性ならの話だろう。異性なら認識もまた異なる筈だ。
それに今更この家に他人が住むなんて違和感以外の何物でもない。むしろ迷惑な事この上無い話だった。
彩俐は適当に相槌を返しながら愛犬の怜と戯れる。そんな娘を見ながら父は困った風に肩を竦めにが笑う。


――家族以外、要らない。


そもそも他人に期待なんてしないし、友なんて必要ない。この頃、彩俐の世界にあるのは家族だけだった。
彼女自身それで良いと思っていたし、それ以外の者を必要としてなかった。だから留学生は受け入れ難い。
この家に新たな同居人が来るのも、他人と共生しなければならない事も不快以外の何物でも無く、迷惑だ。
だがそれを言葉にするのを躊躇ったのは、彩俐以外の家族が新たな同居人の存在を快く歓迎してたから。


 


01.同居人


「君が彩俐ちゃん?」


学校から帰宅して庭先で怜と戯れていた彩俐に不意に声が掛かる。振り返るとそこには穏やかに笑う青年。
その後ろに鮮やかな配色がひと際目を引く4人の青年。否、同世代だと言ってたから少年と言うべきなのか。
一瞬、不審な目を向けたが直ぐに合点がいった。おそらく彼等が今日から同居人となる留学生なのだろう。


「・・・留学生のみなさんですか?」


橙、金、銀、新緑、紺碧。随分と色鮮やかな髪色をしている。怜を撫でる手を止め、首を傾げてそう尋ねた。
彼等が纏っているのは白い学ラン。それは近所でも有名な進学校の制服。留学生となれば相当優秀だろう。
哀しきかな彩俐もそこに通う身なのだから嫌でも分かる。確かに留学生が来ると噂には耳にしたけれども。
まさか同じ学校に通う留学生を招き入れるなんて最悪だ。彩俐は無意識に後ずさり怜の後ろに身を引いた。


「今日から世話になるんだが・・・」
「よろしくな、ちびっ子!」
「・・・御父上から聞いてないのか?」
「脅かさない下さいよイザーク」


「あー・・・・もう、ほら、皆が好き勝手喋るから驚いてるじゃん」


返事をする暇を与えて欲しい。矢継ぎ早に話されても返事出来ない。それを察したのか橙の少年が宥める。
そして「君が彩俐ちゃんだよね?」と、代表して尋ねてきた。その言葉に頷いて母を呼びにそそくさ引っ込む。
間もなく母が嬉しそうに5人を招き入れに出て来た。部屋に戻るつもりだったのが何故か引き摺られてきた。


「・・・なに?」 「皆の部屋に案内してあげてね。りーちゃんの隣の部屋だから」


嫌な予感を覚えつつも溜息混じりに振り返って問う。最悪だ。無視して早々に部屋に引き篭もれば良かった。
とは言え、喜色満面でそう言う母に嫌だと言えずに渋々と了承した。部屋が隣だなんてついてない。厄介だ。
が、流石に放置することも出来ない。「・・・こっちです」。適当に愛想笑いを浮かべて最低限度の案内をする。


(家ん中でまで愛想笑いなんてしたないわ・・・めんどい)


他人と関わりたくない


疎ましいと思う気持ちをグッと堪えて案内を進める。彩俐の隣を歩いて説明を受けるのは橙の少年だった。
その後ろを金銀コンビ。その後を残りの二人が歩く。案内といっても普通の二階建ての家だ。そう広く無い。
とは言っても、庭のある一軒家は一般的に広い部類に入るらしいが。兎も角、部屋数はそれなりにはある。


彼等の部屋は階段を上がって右側の部屋。奥の部屋が姉の部屋で、階段を上った左側が彩俐の部屋だ。
部屋に案内すると既に部屋の用意がされていた個のテーブルは用意出来ないが広さはそれなりにはある。
三段カラーボックスが置いてあるから、荷物を入れたり等の個人のスペースはどうにか確保出来るだろう。
和室だから押入れもあるし、そう考えるとこの部屋は5人で暮らすにしても窮屈でない。むしろ自室より広い。


「困った事があったら、お母さん達か奥の部屋のお姉ちゃんに言ってください」 「はい、ストップ」


「それじゃあ」と、部屋を出ようとしたら、またしても引き留められた。しかも丁寧に腕まで掴んで引き留める。
敢えて相談は両親か姉に、自分には関わるなと暗に告げたのにこの態度。一体、何なのだろう。面倒臭い。
それを押し隠すこともせず、面倒臭そうに視線を向けるが橙の少年はまるで気にもしない。爽やかな笑顔。


「これから暫く世話になるってのに、自己紹介も無しはねぇだろ?」


そう言ったのは金髪に色黒の男。別にこっちは知りたくも無いし、相手は自分の名を知っているなら充分だ。
そう思ったがどうやら名乗りたいだけらしい。「あぁ・・・すみません」。適当な相槌を返して、仕方無く居座る。
普通はホームステイ先に着いたら休みたいと思うのだが、どうやら彼等はそうではないらしい。アクティブだ。


部屋に招き入れられたかと思えば丁寧に席まで空けて貰った。有り難くないその待遇に仕方無く腰掛ける。
隣に座っていた新緑の髪色の少年が「強引ですみません」と、耳打つ。全く以ってその通りだ。強引過ぎる。
だが、それを馬鹿正直に言う程、空気が読めないわけではない。「大丈夫ですよ」と、愛想笑いを浮かべた。


「ディアッカもラスティも強引ですよ!・・・あ、僕はニコル・アマルフィと言います」
「へーへー・・・ってわけで、ディアッカ・エルスマンな。んで、こっちが・・・」
「ラスティ・マッケンジー、よろしくね」
「・・・・・アスラン・ザラだ」
「アスラン貴様、俺より先に・・・「イザーク、早く自己紹介したら?」・・・イザーク・ジュールだ」


横文字の名前が一気に続くと頭が少しばかり混乱する。髪色からして外人だということだけ分かったのだが。
ニコル、ディアッカ、ラスティ、アスラン、イザーク。新緑、金、橙、紺碧、銀。色で認識することから始めよう。
というか、賑やかな連中だ。イザークはどうやらアスランに先に名乗られたことが気に食わなかったらしい。
負けず嫌いというか、子供っぽいというか。噛み付こうとするイザークを慣れた調子で宥めたのはラスティ。


アスランは我関せずとばかりに全くそちらに気を掛けてない。それが余計にイザークの苛立ちを助長させる。
きっとアスランは人付き合いが上手くない筈。こういうタイプはお高く纏ってる風に見られて敬遠されがちだ。
それに真っ向から噛み付くイザークはアレだ、負けず嫌い。ラスティは飄々して人付き合いが上手いタイプ。
ニコルは物腰穏やかで礼儀正しい。見た目から察するに彼が多分同い年。ディアッカはとりあえずチャラい。


「・・・やっと笑った」


無意識に人間観察してしまうのは癖だ。個性の強い5人を前に面白いと思ったのが顔に出てしまったらしい。
そう言って穏やかに笑うのはラスティ。言われた彩俐は一瞬きょとんとするが、ハッとしてぴたり表情を戻す。
「あの・・・?」。いきなり和んだ雰囲気に彩俐は面食らったように戸惑いの声を漏らす。この雰囲気は何だ。


「ずっとつまらなさそうな顔をされていたので嫌われてるのかと思っちゃいました」


そう言って、ニコルが嬉しそうに笑いながら言葉を紡いだ。最初から愛想笑いを見抜かれていたとは意外だ。
これでも愛想笑いは得意な方だしそれを見抜かれることなんて滅多に無かった。きょとんとニコルを見遣る。
別に同居するとは言え他人。気に入らなければ関わらなければ良い。なのに何故わざわざ気にするのか。


「やっぱさ、暫く一緒に生活するわけじゃん?」
「よろしくやろうぜ・・・って、とこ」
「ディアッカが言うと何だか卑猥な響きになりますけどね」
「ちょっ・・・ニコル!それどういう意味だよ!?」


ラスティ、ディアッカ、ニコルが口々に言った。ディアッカに至っては何やら思いっ切り弄られているようだが。
それを見て彩俐は再び表情を緩める。どうやら随分と親しい間柄の5人が揃って留学に来たらしい。面白い。


周囲には居ないタイプの人間に彩俐の好奇心が自然と擽られる。彩俐は元々好奇心の強い子供であった。
目の前に面白いものが転がっているのにそれを見逃すことはできない。だが反面、不安に似たものも募る。
同じ学校であるが故に学校での彩俐も知られてしまう。隠して来た事が筒抜けになってしまう可能性がある。


それだけならまだしも――


(この人達もそうなっちゃうんかな・・・)


空虚感


もしかすると彼等もその一人になってしまうかも知れない。絆されるべきか否か、反射的に頭が計算をする。
可能性を考慮するなら今まで通り適当に関わればいい。期待なんてしなければいい。そうすれば辛くない。
嗚呼、やっぱり彼等も同じだったと納得できる。きっとそうするのが一番無難で正しい選択なのだろうと思う。


「・・・逢隈彩俐です。彩俐でええよ」


が、やはり自分の欲には勝てない。愛想笑いでは無くて自然と笑みが浮かんだ。「よろしく」と、小さく会釈。
まだあどけなさは残るものの、その笑みを見てホッとする。これこそ"自分の知っている彩俐の笑顔"だった。


最年長のラスティは17歳で、イザークとディアッカが16歳、アスランが15歳。そして、ニコルが同い年の14歳。
勝手の分からない留学生への配慮なのか、ラスティとイザークとディアッカは姉と同じ高校三年生のクラス。
ニコルとアスランは彩俐と同じ中学二年生のクラスに振り別けされるらしい。同じクラスになる可能性もある。


――できれば、なりたくないけど。


 


少しの間談笑した後、彩俐は塾があるらしく出掛けた。残された5人はテーブルを中心に囲み言葉を交わす。
議題は言うまでも無くひとつ。どうしてこのような事態に陥ってしまったのかということ。話は数日前まで遡る。


コズミックイラの世界でアカデミーのMS実践訓練に励んでいた。しかし突然現れたホールに吸い込まれた。
気付けば目の前にあるのは自分達の世界よりも未発展の世界。そして彼等を拾ったのが彩俐の父だった。
最初は警戒されたが、到底、信じ難い話を受け入れてくれた。そして、直ぐには無理だが「家においで」、と。


「でも、まさかそれが彩俐のお父さんだとは思いませんでしたね」
「あぁ・・・でも、あの彩俐は俺達のことを知らないんだよな?」
「だろうね。今とは大違いだよねー・・・すごい警戒されてるみたいだし」
「・・・とか言いつつ、お前、そんな嫌がってないだろ?」


「あ、バレた?」
「バレバレだっつーの」


「それよりもこれからどうするんだ?一応、留学生って名目はあるけど・・・」


話し合ってる筈が、皆が好き勝手に話すものだから全然纏まらない。要約する様にアスランが口を開いた。
どうするも何も、戻れるまでただ待つしかない。そう結論が付いたところで自然と溜息が零れて肩を竦める。
時間の流れが違うのかすら分からないが、鍛錬出来ない時間は確実に出来る。詰まる話ブランクができる。


ブランクといっても、元々優秀な5人だから多少の遅れなどハンデにもならない。が、もしも戻れなかったら。
それは非常に困る。今は戦時中であり、戦場で戦う為に軍人の道を選んだ。それなのに果たせないなんて。


――考えたくも無い悪夢だ。


卒業を目前にそれはあんまりだ。それに気になるのはもう一つ彩俐のこと。今回の訓練はチーム制だった。
何の因縁かアスラン・イザーク・ディアッカとニコル・ラスティ・彩俐と、なんとも怖ろしいチームになってしまった。
訓練中に異世界に飛ばされた。しかもどういう事なのか彩俐だけを宇宙空間に残して、だ。きっと驚いてる。
忽然とチームメイトはもちろんながら相手チームまで消失(ロスト)して一人宇宙空間に取り残されたら当然のことだ。


「・・・・・いつ戻れるのやら」


運命のいたずらと呼べるであろう現象。やれやれと言わんばかりにラスティが天井を仰ぎながらふと呟いた。
確かに彩俐の父には良くして貰っている。ラスティからすれば少しばかりお人好し過ぎやしないかと思う程。
もちろん恩を仇で返す気などないがそのお人好しが命取りにならないか気になる。彩俐のアレは親譲りだ。


「わん!」


不意に流れた沈黙を散らす様に犬の鳴き声が響いた。ハッとして皆が顔を上げる。続いてイザークの悲鳴。
「貴様・・・っ・・・やめろ!!」と、抵抗するも虚しくその大きな犬は尻尾を振りながらイザークにじゃれている。
何を遊んでいるんだと思う反面、怜を眺めていて自然と肩の力が抜ける。考え込むことがアホらしく思えた。


――考えたところで何も変わらない。


「今を楽しむしかない・・・って、ことなんですかね」


それを微笑ましく眺めながらニコルが言う。「折角、僕等の知らない彩俐に会えたんですから」と、付け足す。
確かにその通り。此処に居る彩俐は自分達を知らない。異世界から来たという友人の知らない姿。生き方。
最初は警戒されたが最後には自分達の知っている笑顔を見せてくれたことが素直に嬉しかった。安心した。


どこに居ても彼女は変わらない――そして、変わらないのは自分達もまた然り。


考え込んでも変わらないなら、今を楽しむ事こそが最も効率の良い方法だろう。考えるだけ無駄というもの。
ナチュラルもコーディネーターも無い世界。少なくとも戦争が起こっていない平和な世界。それこそ異世界。
ずっとじゃない。ほんの少しの間だけこの平和な世界を楽しめばいい。掛け替えのない友人の元の世界で。


――たとえ、最後に別れがあったとしても。

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