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【HUNTER×HUNTER/外伝/クロロ・イルミ・レオリオ/念能力者夢主】
分岐夢。
基本的に主人公組と行動を共にする。
※旅団は仇にあたるのでちょっと暗い展開。
流星街――そこは何を捨てても許される。
社会的に認められてないもの達の街。
「・・・っ・・・」
息が切れるのも気に留めず彩俐は走っていた。否、それを気にしている余裕はない。足を止めれば捕まる。
再びあの場所に連れ戻されるかも知れないことを想像すると身の毛がよだつ。逃げなければ。もっと遠くへ。
連中の手の解かない場所へ――
小石に足を取られて不意に転んだ。我武者羅に走り続けてたせいで景色に意識を向ける余裕が無かった。
漸く落ちついて周囲を見渡したところで彩俐は一目でその異質さを感知した。見知らぬ街。生気を感じない。
酷く不気味なその空間に意図せず自分から飛び込んでしまったらしい。が、今更後戻りする事は出来ない。
少女――逢隈彩俐はジャポンに住まう平々凡々な家庭で育った箱入り娘だ。年齢は今年で9歳を迎える。
そんな娘がどうして故郷のジャポンから遠く離れた流星街に居るのか。答は言うまでも無く拉致されたから。
今に至るまでの経緯はおぼろげで正直どうしてこの状況に置かれているのかはっきりとは理解出来てない。
が、
彩俐の中で絶対的な確信があった。どこに居ようとこの世界で誰よりも尊敬する父が自分を見つけてくれる。
父はハンターだった。一般人にはなれない職業。彩俐には到底理解出来ないような表彰も沢山受けている。
博識で、優しくて強い、大好き。自分や母や姉を護ってくれる凄い人。だから大丈夫。きっと発見し(みつけ)てくれる。
そう信じているからこうして行動出来た。
どうしてまだ幼い彩俐が拉致されたかという所以は、逢隈家に纏わる得異質な血筋が原因だった。時の民。
時に愛された者達の血。男はそれを求めて中でも一番手に入れ易い彩俐を攫ったのだ。父の目を盗んで。
あの場所での出来事は忌々しい。思い出そうとすると強い恐怖心が蘇える。痛かった。怖かった。寒かった。
帰りたかった――あの優しくて温かに場所に。
男の中で想定外だったのは彩俐がなかなかのじゃじゃ馬だった事だろう。脱走するとは到底思わなかった。
子供の足で大人を振り切ることは難しいが、逃げ足は他に比べて早い方だ。彩俐は連中から逃げ遂せた。
が、体力は限界だった。連中の目から逃れなければ。そして逃げ込むように辿り着いたのが流星街(ここ)だった。
(もうむり・・・)
限界だった
先程こけた拍子に擦り剥いた膝がジクジク痛むがいつまでも蹲るわけにはいかない。無理矢理足を進めた。
が、それも限界で少し進んだ路地裏で遂にはずるずると力なく座り込んだ。無意識に息を顰めながら蹲る。
どんなお転婆であれ彩俐はまだ幼い子供。肉体的に精神的にも限界だった。これ以上は一歩も動けない。
「・・・なんでよ」
どうして、自分がこんな目に遭わなければならないのだろう。そう考えると弱気な声が漏れても仕方がない。
幼い心を占めるのは恐怖と家族を乞う想い。会いたい。声にしたら今まで感じなかった痛みが込み上がる。
食事も丸一日は摂ってない。食べる気になれないが既に胃液しか出て来ない。痛いのか気持ち悪いのか。
そんな最悪の体調で余計な事を考えれば自然と邪念が入り混じるのは当然。どうしてこんな目に遭うのか。
じゃりっ
砂を躙る音
「!!」
その音を常人より優れた聴覚がいち早く拾う。ぴくりと肩が揺れるが逃げる余力はおろか動く気力さえない。
だが逃げなければ。逃げなければ捕まってしまう。あの場所に戻されてしまう。それだけは嫌だ。たすけて。
「・・・・・」
極限までに昂ぶった警戒心が彩俐の瞳を金晴眼に染める。せめてもの抵抗なのか、微弱な殺気を感じた。
視線の先は連中では無く15歳くらいの少年だ。真っ黒な髪に真っ黒な瞳。無感情な瞳が彩俐を見下ろす。
何となく許婚を思い出させた。なかなか会えないが、会えば構ってくれる。どちらかいうと兄に近いそんな人。
「・・・・・おにいちゃん・・・だれ?」
似てるから警戒が薄れたのかも知れない。無意識に呟く声は場に似合わず酷く無防備であどけない響き。
急速に緊張が冷めていく。それと同時に金晴眼が本来の漆黒色を呼び戻した。まるで猫のような変化だ。
自分と同じどこまでも深い瞳をしたその少年・クロロを彩俐は見つめた。ぴくりとクロロが僅かに反応を示す。
「・・・お前・・・「あれ?クロロなにやってんの?」」
最初は捨てられたのだろうかと思った。が、捨てるなら流星街の入口で、こんな奥にまでわざわざ入らない。
怯えた反応を見せていた少女はクロロを見つめるとあどけない顔で「だれ?」と、尋ねた。こっちの台詞だ。
流星街の者でないのは明白だ。そもそも育ちで培われるものが備わってない。警戒心があまりに薄過ぎる。
口を開こうとしたクロロの言葉を遮り、またひとつ、この場にそぐわないあっけらかんとした様な声が響いた。
第三の存在に驚いたのか彩俐の瞳がふたたび金色に染まり始めた。ひょっこりと彩俐を覗き込んで言った。
「あれ?この子どうしたの?」と、金髪の少年・シャルナークがクロロに尋ねた。思わずクロロは息を吐いた。
もういちど言おう――こっちの台詞だ。
「オレはシャルナーク。きみ、名前は?」
前触れもなく覗き込まれて驚いたように目を見張った彩俐は思わず後ずさろうとするが足が痛むのか蹲る。
何の躊躇いも無く名乗ったシャルナークに呆気に取られた。が、名乗られたら名乗り返すのが礼儀である。
「・・・彩俐」
躊躇いがちにシャルナークとクロロに視線を向けると、か細い声で答えた。その表情は酷く不安げに見える。
まさか本当に名乗ると思わなかった。同じようなことを思ったのかクロロとシャルナークが顔を見合わせた。
間違いなく少女は流星街の者ではない。この街の人間ならこんなにも馬鹿正直に答えたりはしないだろう。
「いい子だね、彩俐はどこから来たの?」
素直な反応は不快にはならない。逆に庇護欲に似たものを覚えたのか、シャルナークは優しく頭を撫でた。
更に尋ねれば「ジャポン」と短く返り「ここどこ・・・?」と、泣きそうな顔と声で彩俐はシャルナークを見上げた。
シャルナークの優しい物言いに無意識に心を許したのだろう。先程から見せるのはあどけない表情ばかり。
「ジャポンから・・・?」
彩俐の言葉に反応を示したのはクロロ。その名前は聞いたことがある。確か情報源はノブナガだった筈だ。
武者修行とやらに行った先がジャポンだったと思う。東洋の島国だと聞いたように思う。美しい国なのだ、と。
だが何故、ジャポンに住まう子供がこんなところに居るのか。何を捨てても許されるこの街に居るのだろう。
「しらない人たちにつれてこられて・・・でもイヤで・・・」
つまり逃げて来た、ということ。たどたどしく紡がれる内容から彩俐が誘拐され、そして逃げ出した事を悟る。
先程から足を庇うように蹲っていたのは逃げた拍子に足を怪我したのが原因だ。不安げに二人を見上げた。
その素足は酷く傷だらけで目もあてられない。顔色もどれだけ食事してないのか、良いとは決して言えない。
境遇を物語るそれらは見ててあまり気持ち良いものではない。クロロはちらりとシャルナークに目を向けた。
案の定、クロロの意見を仰ぐようにシャルナークはクロロを見ていた。シャルナークはまだ12歳だが聡明だ。
同時に我が強い。意見を仰ぐというのは建前に過ぎずシャルナークの中では答えは決まっているのだろう。
どうやら彩俐の事を気に入ったらしい。そして連れて帰るつもりなのだ。気に入る理由は分からなくはない。
「・・・場所を変える。此処は衛生面的に悪い」
溜息混じりにクロロが彩俐に手を伸ばした。が、一瞬、怯えたように身を引こうとした。面倒だと少し思った。
自分達に対して警戒してるのではなく伸ばされた手に反応した。「大丈夫だよ」。と、シャルナークが宥めた。
「・・・・・」
再び伸ばされた手をふるふると首を横に振って拒否する。案外警戒心が強いのだろうか、と、意外に思った。
「あかん」と、僅かに動いた唇が紡ぐ。何が駄目なのか。理解出来ずクロロとシャルナークは顔を見合わす。
彩俐が二人に向けるのは警戒では無い。戸惑いと困惑。気兼ねしてるらしい。巻き込むかも知れない事を。
まさか、会って間もない相手に警戒ならまだしも、気兼ねするなんて――。
馬鹿な子供が居たものだ。勝手に関与した他人なんて放っておけばいい。子供らしく素直に甘えれば良い。
なのに気兼ねして巻き込むことを危惧するなんて。所詮は他人に過ぎないのだから利用すれば良いものを。
それが出来ないのは根が真面目だからか。否、単なるお人好しなのだろう。きっとこの街じゃ生きられない。
誰かが庇護してやらなければこの娘はあっという間に死んでしまうだろう。良く言えば純粋で、無知だから。
不意に喧騒が聞こえた。おそらく流星街の入口付近だと思う。その音を拾った彩俐がビクッと肩を揺らした。
伸ばされた手を反射的に叩き落とし足が悲鳴をあげるのも無視して二人から距離を取ろうとする。駄目だ。
このままでは二人を巻き込んでしまう。あの場所は大嫌いだ。が、この人達を巻き込むのはもっと嫌だった。
「・・・此処の連中は仲間意識が強い。理由はどうあれお前も流星街に立ち入った」
埒が明かない。クロロは溜息一つ、後ずさる彩俐の手首を捉え引き寄せた。鋭い痛みに彩俐は顔を顰める。
そして「いいか」と、前置いてそう言った。彩俐は何を言われたか一瞬分からなかったのか、茫然としていた。
警戒心が強いのは大いに結構。馬鹿みたいに素直で無防備な子供では流星街ではきっと生きていけない。
「流星街(ここ)は全てを受け入れる街だから」
「だから大丈夫だよ」と、不安げに二人を見遣る彩俐の頭をくしゃりと撫でた。大きくなる喧騒に不安が募る。
騒音の原因はおそらく連中だろう。居場所がバレて、強行突入しようとしている。誰かが巻き込まれてしまう。
自分のせいで誰かが傷付くなんて嫌だ。二人の言葉にただただ首を横に振った。甘えてしまったら駄目だ。
そんな彩俐を他所にクロロは半ば強引に抱き上げた。突然の事にバランスを崩して思わずクロロに掴まる。
――予想をはるかに超えて、軽い。
(・・・どんな生活をしていたんだ?)
思わず凝視する
あまりにも軽い。女の子の平均体重なんぞは知らないが、それを差し引いてもあまりにも軽過ぎると思った。
驚いたような顔でクロロが彩俐に目を向けると、彩俐はそれよりも驚いた様子で口をパクパクとさせている。
遠くで聞こえる喧騒の中にはおそらくウヴォーギンやノブナガ、フィンクス、フェイタンも混ざっているだろう。
推測するに大方、横柄な態度の余所者を不快に感じて奴等がキレたのだろう。同情はするが自業自得だ。
そんな事をぼんやり考えながらクロロは後からシャルナークが付いて来る気配を察しながら住処に走った。
「・・・なん・・・で・・・?」
走っている中、小さく聞こえたその声に聞こえないフリをしながら――。