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第二話途中まで。
ハートの騎士の子供時代に意外と難航しております。
ユリウスに拾われてから数時間帯が経過した。程無くして、痛めた足は順調に快復に向かいつつあった。
この世界の理がそうさせているのか知らないが、ユリウス曰く「余所者にしては回復が異常に早い」らしい。
彼の指す「この世界」というものをまだ理解し切れていないのが現状。少しばかり複雑な世界なのだとか。
――まあ、こっちも複雑な事情があるけれど。
「りー!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには聞き間違える筈も無いエースの姿。「何?」と、読を読む手を止めた。
エースはユリウスの養い子だ。そして、"りー"の名付け親である。命名法はさておき結構しっくりと馴染む。
しかしそれを本人言うと調子に乗ると思うから心の中にのみ留めておこうと思う。彼は優しくて性格が悪い。
優しいと性格が悪いが同時に挙がるなんてそう無いだろう。短い人生の中でりーとて初めての経験だった。
しかし、残念ながら事実、彼の性格がとても悪い。性悪というか、むしろユリウスが好き過ぎるだけなのか。
拾って貰うまで漕ぎ付けるのにとんでもない因縁を作ってしまった。思い出してあまり心臓によろしくない。
エースにとって、ユリウスは大切な存在だ。それを困らせる輩は絶対に許さない、というところなのだろう。
(でも、だからって剣を向けることないのに・・・・・)
今でも思う
いくら脅すにしても、もっとスマートなやり方は幾らでもあると思う。強硬手段過ぎて、正直、どうしたものか。
女の子を相手に剣を向けるとかあり得ない。でも、性格は良くないが、根は優しいということは知っている。
そして、それなりに面倒見も良かった。妹分が出来たと思ってるのか、よく、進んでりーの事を構っていた。
「まだ治らないの?」
「ほんと君ってとろ臭いよな」と、心配しているのだかしてないんだか。治癒速度にとろ臭いは無いだろう。
エースは見た目通り活発だ。一応、ユリウスに従って危険な事はしてないが、基本的に外遊びが好きだ。
「殆ど治りかけやけど、ユリウスが・・・・・」
言葉尻が弱くなる。例に漏れず、りーもユリウスには弱かった。だが、実際に怪我はもう殆ど完治している。
しかし保護者のユリウスが外出を許してくれない。もう走ることは可能で、日常生活にも差し触り無かった。
彼は良くも悪くも過保護だ。否、放任主義なところもあるが、基本的に責任感が強く、とても面倒見が良い。
その結果――・・・・・。
「あ~・・・・・まあ、ユリウスだからな」
「過保護過ぎるぜ」と、肩を竦めてエースが呟いた。最後に至っては観世に本音の愚痴が駄々漏れだけど。
それに対して、りーも肩を竦め笑った。否定はしない。本来、りーもエースと同様に活発な性質の持ち主だ。
だから、ずっと家に引き籠って読書という生活も悪く無いが、そろそろ辛い。でも、保護者命令が出ている。
「うぅ・・・はよ外行きたい!!」
読書で凝った身体を、伸ばす事で解しながら本音が漏れる。この世界の概要を聞いて興味が沸いている。
幸いなことに、エースも外出許可が降りたら色々と連れ回してくれるらしい。それを考えると、とても歯痒い。
りーの頭をぽんぽんと撫で、エースが笑う。彼の中でりーの立ち位置がどの辺に居るのかよく分からない。
最初の頃と違い、無愛想な態度を取るわけではない。否、あれに関してはこちらも非があったから相殺だ。
態度を見るからに嫌われてはいないようだが、あれか。名前を付けたペットに愛着が沸いた的な、あれか。
「塔とか楽しいと思うぜ?あ、後、他にも・・・とにかく!早く治せよ」
「色々連れて行ってあげるよ」と、楽しげに笑う。この国には、幾つかの領土というものに分かれてるらしい。
塔、というのも領土の一つで、ユリウスの家があるのがそこだ。大きな広場があり、バザールが開かれる。
あと、城が存在するらしい。まるでおとぎの国に迷い込んだみたい。城には愛らしい姫様が居るのだとか。
物騒な一面もあるらしいが、それはそれでスリルがあるとエースは語った。楽しげに語られると気になる。
早く外に出たい気持ちはある。だけど許可が下りないからどうしようもない。じれったくて、溜息が零れた。
「他にはどんな領土があるん?」と、好奇心から尋ねる。興味を示した事にエースは少し驚いた顔をする。
「・・・聞きたいの?」
と、面食らったように聞かれた。大人しそうな印象を受けるが、案外活発であるりーが意外だったのだろう。
その問い掛けに勢い良く「うん!」と、首を縦に振る。目を輝かせる少女を見てエースも自然と頬が緩んだ。
さて、説明を続けよう。
他にも領土が二つあって、一つは帽子屋屋敷。此処は、何でも無い日と称して頻繁にお茶会が開かれる。
エースも参加したことがあるらしいが、屋敷の主人のハッターという女性が苦手ならしい。綺麗な女性とか。
そして、型物だが寂しがり屋の一面も持つ彼女の腹心の部下、ハイヤー。そして、常駐しない双子の門番。
二つ目は、墓守領。美術館の館長と墓守を兼任しているらしい。領主のジェリコ=バミューダはりーと同じ。
否、少し違うか。元・余所者だという。気さくで明るいお人好しなのだとか。ユリウスの旧友でもあるらしい。
どちらも、個性が強いがマフィアという側面を持つらしい。帽子屋屋敷の方が組織としては長い方だとか。
二つの組織が同盟を結んだことによって、他ファミリーが迂闊に抗争を起こさずに割と平穏を保ってるとか。
「だから、子供が一人でも出歩けるんだ」
と、エースが言った。「まあ、ユリウスはいい顔しないけどな」と、続く。それは、エースだからこその言葉だ。
ユリウスに拾われるまでの時間を一人で過ごしたが、そんな風に言えない。この国の不穏さは知っている。
「・・・なあ、役持ちとか余所者って何なん?」
と、説明によく出てくる単語を尋ねた。「あれ?あ言って無かった?」と、エースが首を傾げた。聞いてない。
エース曰くこの国の権力者に当たるらしい。ユリウスもその一人だとか。「地味だけどな」と、けろりと笑う。
権力者といえば偉そうにしている印象があるから、確かにユリウスが権力者と言われても結びつかない。
「じゃあエースは?」と、勢いで尋ねると一瞬、動きが止まった。何か拙い事を聞いてしまったのだろうか。
ほんの少しだけ紅い瞳が昏い色を宿した様な気がして、焦りが募る。伺うようにエースに目を向けて後悔。
見るからに不機嫌だ。慌てて取り繕う様に「言い難かったら別に・・・」と、フォローしようとした。それと同時。
「・・・俺は役を選んでない」
「でも、顔無しでもない」と、言い切られる。自分の知らないこの世界の仕組みがまだ何かあるのだと思う。
虚空を見つめるエースの瞳がどこか寂しげに見えて、それ以上は聞くことが出来なかった。言葉に詰まる。
「エース?」。何だか消えてしまいそうな気がした。急に漠然とした不安に苛まれて、思わず名前を呼んだ。
結局、それ以降は話を濁されてしまった。と言っても、こちらも少し気まずかったから、良かったように思う。
それから【余所者】について教えて貰った。余所者とは、ワンダーランドの外から来た者を指す言葉らしい。
詰まる話、りーがそれに該当する。この国の住人にではない存在。住人に愛されやすい傾向なのだとか。
「え~?それ、ぜったい嘘やわー」
そんな特殊な人間が居て堪るものか。その説明を受けて、りーはけらけらと笑ってそう言った。あり得ない。
「『愛されやすい』だから、必ずしもってわけじゃないよ」と、突っ込まれる。「それに、可愛げないだろ。君」。
追い打ちの一言がさくりと刺さる。さり気無く投下する辺りは相変わらずだ。「いじわる」。恨みがましい目。
最初の頃より優しくなったとはいえ、こういう意地悪な部分は健在だ。からかいなのか、嫌味なのか際どい。
「でも、関わっていくうちに惹かれるらしいよ?」と、フォローのつもりなのか一言。頑張れば好かれるのか。
どこの世界でだって他者と関わるとはそういう事だと思うが。「・・・エースも?」と、冗談交じりに尋ねてみる。
「いや、それは無い」
(・・・爽やかに言い切りやがった)。容赦なんて存在しない。一刀両断されて流石に凹む。そんなに嫌いか。
「でも嫌いじゃないぜ?可愛げはないけど」と、頭をぽんぽん撫でられる。体よく宥めれただけの気がする。
どれだけ最初の出会いを根に持っているのだ。そんなにユリウスに迷惑を掛けたのが気に食わないのか。
それにしても、だ。
「エース!ユリウス説得してよー」
「もう大丈夫やから!」と、色んな話を聞かせて貰って我慢できなくなってきた。外に出たい欲求が高まる。
「えぇ!?無理だって。相手はユリウスだぜ?」。口達者なエースでもユリウスを説得するのは困難らしい。
「だって、もう殆ど完治してんねんで?」と、目の前でぴょんぴょん跳ねてみる。うん、痛みは殆ど感じない。
「あれ?意外と跳躍力ある?」
意外そうな顔でエースが呟いた。エース曰く「だって君、鈍臭そうだし」と、案の定、余計な言葉が続いた。
確かにこれが運動神経に直結するかといえば微妙だがそこまで壊滅的ではない。アウトドア派舐めんな。
「ほらー!大丈夫やろ?もう大丈夫やってば!」
暗に、説得を手伝えと主張する。これ以上、自分の好奇心を抑え込む方が困難だ。外に遊びに行きたい。
確かに偶に痛む時はあるが、それだって一番酷かった時よりマシで、堪え切れない痛みってわけじゃない。
「な?いいやろ??」と、エースの服の裾を掴んで味方を募る。彼にとっても悪くは無い話だと思うのだが。