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第一話。
いきなり最低なお話し。




「・・・・・勘弁してよ」


溜息。外出から戻って滞在先である時計塔の、ユリウスの仕事部屋の扉を開けようとしてその手を止めた。
そしてどうしたものかとばかりに小さな声で呟く。中には人の気配がある。仕事部屋兼住居だから当然だ。


が、問題はそれだけでは無いから困る。


中から微かに聞こえたのは艶やかな啼き声。ユリウスでも女を連れ込むんだなと現実逃避できたら良い。
だがあいにく困ったことにその声の主が彼自身であるのだから困る。確かに責められても可笑しくは無い。
おかしくはない、が、もう一つの声がユリウスと同性であることが問題なのだと思う。否、問題はないけど。


(・・・恋愛は自由やしな)


納得


幸か不幸か、彩俐は同性同士の恋愛についてどうこう感じる性質ではない。むしろ、幸せならそれで良い。
良いのだけれど、一応、自分も住み着いている部屋でそういった情事があると知ると少しばかり気まずい。


というよりも、戻れない。


流石に『眠い』という自分の欲求を貫いて行為最中の部屋に入る勇気は無い。というより、遠慮願いたい。
どうせヤるなら余所でやれよ、と、八つ当たり半分の心境に陥る。ユリウスの相手は誰だろうなと考える。
が、中から微かに聞こえた『ユリウス、いつもより興奮してないか?』という、能天気な声に相手を察した。


そうか、興奮しているのか。ならばさっさと達するなり何なりしてくれと思ってしまう辺り自分も大概勝手だ。
が、別にリア充爆発しろなんて羨望的な感情を抱いているわけではないから良いと思う。常識的な考えだ。
というより、いつまで野郎の喘ぐ声を聞かなければいけないのだろう。本日二度目の溜息が深々と漏れた。


もう少し城で遊んで来たら良かったと思ったが、たぶん、あのまま城に居たら身の危険があった気がする。
最初は仲良くビバルディの着せ替えごっこに付き合っていたが、途中からなにやら妖しい雰囲気になった。
別にそっちがいけないわけではないけど、でも、だからといって好き好んで道を踏み外す気は無いわけで。


「なあ、入ってこいよ」


そういえば、この国って道を踏み外した人がたくさん居ると思う。踏み外すというかネジが取れたというか。
カップリングといえば聞こえは良いが、いや、別に恋愛自体は個人の自由だから別に構わないのだけども。


それにしたってもう少し配慮があっても良いのではないかと思わなくもない。滞在地を巡っておったまげた。
帽子屋屋敷に行けば双子は近親相姦を愉しんでいるし、ブラッドとエリオットはアブノーマルな関係性だし。
遊園地はボリスとゴーランドが恋人ごっこに興じている。夢魔に至っては腹心が寝かせてくれないだとか。


(いや、そんな情報いらねーし)


言いたかった


けど、恋する乙女のように恥じらいながらそう語る夢魔にそんなこと言えない。というか、ならばなぜ居る。
寝かせてくれないのに夢の世界に居るとか意味が分からない。そんなこと、恋する夢魔には言えないが。
そして城に至ってはビバルディとキングが。とかなら普通なのに、実際はそうではなくアリスが踏み外した。
ペーターに至ってはアリスの可愛いお人形さんである。恋人ですらないというのだ。何やってんだ案内人。


まるで――常識が通じない。


いや、そもそも銃弾飛び交う世界だから当然かも知れない。「なあってば」。飛び交ってるのは別の物だが。
同性愛飛び交う世界と改名した方が良いのではないだろうか。やっぱりそんな世界は夢がないから嫌だ。
もっと夢のある名前を――薔薇飛び交う世界とか。でも、飛び交っているのは薔薇だけではなく百合もだ。


「無視するなよ、彩俐」


現実逃避を続けている最中、不意に扉が開いて声が降って来た。緩慢な動作で声の方に視線を向けた。
ら、微妙に着崩れて頬が上気したエースの姿。その向こうにあられもない姿でソファーに倒れるユリウス。


「・・・ひどいぜ」


思わずどこかの騎士みたいな台詞がぽつり零れた。情事の後か最中は知らない。正直、知りたくも無い。
ユリウスの格好が酷いのか状況が酷いのか、はたまた巻き込まれていることが酷いのか。全部だと思う。
一度、時計塔から離れようと決意する。無言で踵を返して階段に向かおうとしたらエースに腕を掴まれた。


「酷いのは彩俐じゃないか」


「帰って来たのに、ただいまも無しだなんて」と、何故か不満を告げられる。「気にすんな!」。満面の笑顔。
少なくとも自分は気にしない。情事の最中に声を掛ける方が無粋かつ酷いだろう。心遣いを汲んで欲しい。
エースとの対話もほどほどにさっさと退散しようとするが、掴まれた腕が離れない。そう、離れてくれない。


「・・・エースさーん?」


暗に「離せ」と言ってみても、無意味だ。この男には酷かろうと酷く無かろうと直接言わなければ通じない。
颯爽とした笑顔で「帰って来たばっかりですぐ出掛けるなんて不自然だぜ?」等とのたまう、ハートの騎士。
不自然だと言うなら、出て行きたい衝動に駆られる行為は自粛して欲しい。「邪魔したら悪いやろ」。笑顔。


「俺は別に邪魔者扱いしたりなんてしないぜ?」と、可愛らしく首を傾げられたところで全然可愛らしくない。
むしろ邪魔者扱いされずとも気持ち的に居心地が悪い事を御理解頂きたい。「なあユリウス?」と、尋ねる。


(やめたげてよー・・・・いや、マジ、やめたげてよー)


心底 同情する


遠目だからはっきりと視認出来ないがどう考えてもまだ返事出来る余裕が見受けられない。こいつ鬼畜だ。
ユリウスも、相手に選ぶならもう少しマシなのを選べば良いものを。人様の恋路に口を出す気は毛頭ない。
が、こうも不当な扱いを受けているのを見ると同情というか、指摘したくなる位にはユリウスに愛着がある。


こちらの冷めた目に気付きもせず(はたまたその気がないのか)エースは「ユリウスってば」等と、のたまう。
本当に一体どうして目の前のくそったれを選んだのだろう。何だか見ていて腹立たしい気分になってきた。
「あんたな、そのうちフられんで」と、吐き捨てる。むしろ、今すぐにでも振られたって文句を言えない筈だ。


「ユリウスはそんな薄情じゃないぜ」


「君と違って」と、何故かこちらに飛び火する。わざとらしい驚愕が余計に喧嘩を売ってるのかと言いたい。
というか、薄情じゃないと思ってるのはエースだけだ。彩俐は確かに見た。向こう側でユリウスが頷く姿を。


「私の話はさておき・・・・あー、ごめん。何でもない」


「どうでもいいから離して」と、棒読み加減に答える。反論しようとしたのだが、熱い視線を受けてしまった。
余計な発言でエースの機嫌を損ねて八つ当たりをされたくないのだろう。ユリウスの目が結構本気だった。
格下のカード相手にそれで良いのか時間の番人。と、言いたいところだがそれよりも先に服を着て欲しい。


今の自分に何が出来るのかと考えてみたら答えは一つ。一糸纏わない姿のユリウスから視線を外すだけ。
己の無力を痛感しながらどうにかエースをあしらおうとするが、まるで離す気が無いのか一向に離れない。
にこにこと微笑んで掴む力ばかりが篭るのだから好い加減痛い。事後を邪魔したのがいけなかったのか。
これって詰まる話は八つ当たりされてるのだろうか。そうなのか。否、だとしたら本当に申し訳ないと思う。


――だから、離せって。


「折角だから君も楽しんでいきなよ、惜しむほどのものでもないだろ?」


さらりと最低な言葉を吐かれた。しかも悲しきかなエースの発言の意図がしっかり理解出来てしまうとは。
引き寄せられて耳元で吐息交じりに囁かれるのを空いた手で無理矢理押し退ける。返答など決まってる。


「・・・ふざけんな」


確かに惜しむほどではない、というのは同意する。だが、こちらにだって選ぶ権利は間違いなくあるのだ。
あまりにも馬鹿馬鹿しい発言をかます目の前の男に呆れて答える。本気で怒る気さえ失せる発言だった。


(というか、それ楽しいのエースだけだし)


こっちは全然楽しく無い


それにこっちにちょっかいを掛けてる暇があるなら、本命である恋人をもう少し大事にしてやれと言いたい。
そのうち本当にユリウスにフられるぞおまえ。というか、既にカウントダウンだということに気付くべきだろう。


悪趣味極まりない絡み方をするエースをどうにかしてくれ、とばかりにユリウスに視線を向けた。後悔した。
少し体力が回復したのか格好を整え直しているユリウスの目がこちらに向いてない。おい、どうにかしろよ。
そう念じたのが届いたのか漸くユリウスが振り向いた。そしてグッと親指を立てる。同情した事を後悔した。


「一生xかされてろ、xxが」


恩を仇で返すとはまさにこの事だ。思わず吐き捨てた暴言にエースが「口汚いぜ」と、何故か窘められる。
元の原因を辿ればお前だ。と声を大にして言いたい。というか、一刻も早く爛れた空間から抜け出したい。


「彩俐は仮にも女の子なんだから、そんな言葉遣いしちゃ駄目だぜ?」


「仮にも女の子なんだから」。何故、二度繰り返したのかと問いたい。仮定しないといけないレベルなのか。
仮定しないといけない性別ならいっそ放っておいて欲しいと切に思う。そして抵抗空しく引きずり込まれた。
無情にもバタンとドアが閉まって室内には服が乱れた男が二人と少女。澱んだ空気だけが渦巻いている。


ドアを背中に明らかに自分より視線の高いエースを睨む。と言っても、無言の抗議ではどうせ伝わらない。
至近距離に容姿の整った異性が居たら見慣れなくて動揺するのも可笑しくは無い反応だ。離れて欲しい。
視線を外そうとフイッと顔を逸らせば小さく笑う声。「照れてる?」。余裕に満ちた声が降り、吐息が掠める。


「っ~~!!」


ぞわりとした感覚が背筋を走り抜け、カッと顔に熱が篭るのを感じる。そして、反射的に耳を抑えて睨んだ。
最悪だ。どうして騎士なんかと気色悪い展開になっているのかも謎だが、反応してしまった事についても。


「あはは、君ってほんと耳弱いよなー」


反応すれば相手を付け上がらせるだけだと理解していた筈。案の定、エースは愉しげに口元を歪め笑う。
だが、弱い箇所を突かれたら平静を保つのは悔しい事に困難だ。が、それを晒す相手を確実に間違えた。
どうやら調子を取り戻し始めたのかユリウスが呆れた顔でこちらを見ていた。処理しなくていいのだろうか。


(・・・下痢になっても知らんよ)


どうせ中出しだろ


自分でも危機感が薄いと思ったが、どうしても現状を鑑みるにエースが本気で手を出すとは思えないのだ。
仮にも目の前に恋人が居るにも関わらず他に手を出す事はしないだろう。流石にエースでもしないだろう。


これでも一応、彩俐は女だ。


ユリウスは謂わば女役であり、その心理を女性に喩えて紐解くのならば決して面白い出来事ではない筈。
というか、一般的な女性なら間違いなくビンタの一発でも喰らわせて別れを切り出しているくらいのことだ。
否、エースが相手となればそうもいかないかも知れない。自分が悪くても殴らせてくれるような男ではない。


「なー!ユリウスも混ざるだろ?」


「偶にはユリウスだって名誉挽回したいもんな」。あはは、と、爽やかな笑い声。それならお前がやってろ。
軽蔑の眼差しをエースに向けた後、彩俐は最後の常識人であるユリウスに視線を向けた。彼なら大丈夫。
目の前の変態とは違って可笑しな思考に走らない。「・・・そうだな」。ユリウスなら常識的な判断を下す筈。


「協力してやる」


「ただし、暫らく塔に顔を見せるなよ」と、ユリウスの声。全然この人、常識人じゃ無かった。むしろ最悪だ。
恩を仇で返された気分である。人をダシに使ってさっさとエースの性欲を処理して出て行かせるつもりだ。


「ははっ、ユリウスも男だって事だな」


「ちなみに、保証は出来ないぜ?」と、頭上で交わされる最低な遣り取り。彩俐はその瞬間、心に誓った。
(もう帰る。何が何でも絶対帰る)。不思議の国を満喫したいなんてクソ喰らえ。こんな卑猥の国はもう嫌だ。
不意に浮遊感を感じた。同時に不安定さを感じて咄嗟に掴む。「なんだ君も積極的じゃないか」。後悔した。


選りにも選ってどうしてエースの首を掴んだのだろうか。否、いっその事このまま絞めれば良いのだろうか。
「あはは、間違っても絞めないでくれよな?」「絞め付けはxxxだけで十分だ」。絞めたいけど絞められない。
というか、平然と禁止用語を言わないで欲しい。誰か公然猥褻罪で取り締まって欲しい。あ、駄目だ無理。


――この男が取り締まる側だった!


 


「っ・・・いった!」 「ぐっ」


衝撃を覚えるのと同時に呻く声が聞こえた。次いで「重い。退け」という声。女に対して重いは無いと思う。
というよりも、エースの奴、ソファーの上に落としやがった。置くならまだしも、落とすってどういうつもりだ。


「ユリウスー、女の子に重いは無いだろ?」


「せめて濁してやりなよ」と、エースが窘めるがこっちの方が余程酷い。重いという事実は否定しないのか。
このxxxx共まとめて滅べば良いと思う。ユリウスの言葉に従い大人しく立ち上がろうとして、引き戻された。
「おい」と、ユリウスに呼び止められる。「どこに行く気だ」って、さっさと退散するに決まっているじゃないか。


「お前がいないと始まらないだろ」 「始まらなくて良いって本人の意思は無視?」


自分本位も大概にしろよこの野郎。最後の言葉はグッと飲み込んで立ち上がろうとした。が、腐っても男。
思いの外、ユリウスの力が強くて立ち上がるに、立ち上がれない。「諦めろ」と、悪人張りの台詞が返った。


「君だって気持ちよくなれるんだから悪くは無いだろ?」


「そうそう」と、ユリウスの言葉にエースが同意して、とんでも理論を押し付ける。一緒にするなと言いたい。
何度でも繰り返すが、こちらにも選ぶ権利があることを自覚して欲しい。「いや、全然よくないやろ」。即答。
「抵抗してもいいけど後で辛くなるのは彩俐だぜ?」。だが、目の前の男はまるで人の話を聞こうとしない。


するりとエースの手が手袋越しに頬を撫でる。布が擦れるのが少しくすぐったくて僅かにだが目を細めた。
のがいけなかったらしい。何を勘違いしたのか喜色満面でエースが言った。「素直じゃないなぁ」。死ねよ。
背後からユリウスが髪を除けて露わになった項に口付けを落とす。渇いた唇が首筋をなぞりくすぐったい。
いつの間にか背後からユリウスに抱きすくめられていた。「ユリウスも乗り気だよな~」と、エースの笑う声。


「俺も負けてられないぜ」という、呟きが聞こえて上を向かされる。至近距離にエースの顔があって躊躇う。
逃れるように顔を背ければフッと笑う気配がする。深追いすることなく、エースの手が肩から下をなぞった。
ただでさえ男で、それも二人同時となれば抗えるとは思えない。彩俐は諦めたように小さく溜息を漏らした。


(・・・・・帰りたい)


強く 思う


歪んだ現状が気持ち悪い。エースとユリウスは恋人の筈。なのにどうしてその二人に食われ掛けるのか。
既に成立した関係に巻き込まれるだなんてくだらない。これではまるっきり邪魔者だ。馬に蹴られてしまう。


と愚痴るのはさておき、どうせ今回きりだ。


これを過ぎれば元の世界に戻るから、今後一切、二人の関係性を邪魔する事は無いから安心して欲しい。
そして思う存分に閉ざされた空間であるこの時計塔内部で背徳的な関係を営めば良いと思う。平和的だ。
あ、でも間違ってアリスが居合わせない様に注意を促さないと。変態プレイに巻き込まれるなんて悲劇だ。

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