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まだ途中




――『ミカミに似ているからか?』


オランヌの、声。


紅茶を持って、戻ろうと思った瞬間に聞こえた言葉に足が止まった。無意識に息を殺し耳を澄ませていた。
その名前に反応してしまったのは自分とルリアが出会った時、彼がそう呟いたことを今も覚えていたから。
驚いた様に彩俐を凝視して、そして少し考えた後にルリアは言った。冷たい石畳みで膝を抱え蹲る自分に。


『おいで。・・・一緒に行こう?』


と、引っ張り上げてくれた。他に縋る先が無かったのを否定しない。でも、差し出された手は光に似ていた。
薄暗い鳥籠の中で、久し振りに光を見た様な気がした。そして今、自分は此処に居る。籠の中では無い。
ルリアが連れ出してくれた外の世界は不可思議で彩俐の知る世界とはまるで違った。不安と興味が募る。


一番大きな違いはこの世界には魔法が存在すること。彩俐にとって魔法とは物語の中にしか存在しない。
否、ある意味で化学も魔法のようなものかも知れないが、少なくとも日常的に見掛ける身近なものでない。
そしてもう一つは、モンスターの存在。元の世界でいう動物みたいなものらしい。ただし、その全てが野生。
いつ元の世界に帰れるかも分からない状況下で、縋る先はルリアしかいない。だから、不安が募ったのだ。


だって、


否、『だって』ではない。仮に、オランヌが言ったミカミという人に自分が似ていて、だから、ルリアが選んだ。
それが事実だったとしても彩俐には関係ない。否、無くは無いが、それでも結果的に功を奏したというなら。
喜ぶべきことだ。おかげで現在の自由が存在する。だけど、どうしてか、それが事実なら少しだけ複雑だ。


 


「あれは、ミカミとは違うよ」


「ミカミはあんなに出来が悪くない」。ルリアはフッと笑ってそう言葉を紡ぐ。当然だ。彼女は聖職者だった。
それに比べれば彩俐はむしろこちらが教えるべき存在。似ても似つかない。見た目だけだ。似ているのは。
重ねられる筈がない。仮に重ねてみたところで相違点ばかり浮き上がって違いを目の当たりにするだけだ。


「・・・そっか」


と、言葉を返したオランヌの声調はどこか軽い。それを聞いてルリアは小さく笑いながら不意に口を開いた。
「せっかくの紅茶が冷めてしまうだろう?おいで」と、端から聞いてたのはバレていたらしい。手招きされる。
分かってて話しを進めるなんて性質が悪い。どこかバツの悪そうな顔で紅茶を差し出せば頭を撫でられた。


「っ・・・ちょっと!」


と、反射的に手を払った。確かにルリアから見ればまだ子供の年齢かも知れないがこれでも一応は14歳。
あまり子供扱いされて嬉しい歳では無い。だがルリアは彩俐のその反応を見てまた可笑しそうに笑うだけ。


その反応が余程気に入らないのか食って掛かり、それを適当にあしらうルリア。師弟と呼ぶにはまだ早い。
ルリアの容姿が若いのも相まってただの兄弟喧嘩にしか見えない。それを見てオランヌは笑いそうになる。
案外上手くやってるらしい。ルリアが弟子を取ったと聞いた時はどんなものかと思った。実際に会って殊更。


が、今の遣り取りを見ていると、少し安心する。


 


師弟としては未だデコボコではあるが、相性は悪くない。というよりも、ルリアが珍しく気を許しているのだ。
今までは気を許すに至るだけの存在に出会うことが無かった。故に、弟子を取ろうとはしなかったわけだ。
が、今になってやっとそれに値する者と出会った。ルリアの中で己の時間を割いても構わないと思う相手。


(魔法の素質は・・・一応あり、か)


眺めて 思う


魔力を持たない一般人を弟子に取ることは流石にしない。が、どの程度かという好奇心は少なからずある。
魔法を知らない割には潜在された魔力はそこそこにある。磨けば光る珠というべきか。洗練されている力。
ルリアがそこまで見込んで彩俐を選んだのかは怪しい。否、愉快犯の割に抜け目ないことは否定しない。


「ところで・・・オランヌさんは今夜、泊まっていかれるんですか?」


だとしたら、部屋の支度もある。時間を考えればとんぼ帰りというわけにもいかないだろう。小首を傾げた。
本来ならルリアが尋ねて用意を促すべきなのに、まるで気が利かないものだから彩俐が尋ねるしかない。


「そうだな、俺としては泊まらせて貰えると有り難いんだけど・・・」


言いながらルリアに視線を向ける。と、ルリアは穏やかに笑い「泊まって行けば良いじゃないか」と、一言。
さらに追い打ち「彩俐だって、オランヌともっと話したいだろ?」と、人の心の内をあっさりと暴露してくれた。
少し驚いた様に目を見張ったオランヌからバツが悪そうに視線を逸らす。それを見てルリアがまた笑った。


興味を持たない筈ない。確かに、ルリアも魔法使いで日常的に魔法を使う。が、それとまた違う魔法使い。
オランヌは教師で、魔法を教える側。まだ学び始めたばかりとはいえ、教師が傍に居たなら、気にもなる。
自分の身を守る為というのも大きいが、何より学び始めたばかりの未知のものに対する興味は尽きない。
初心の頃は何事においても貪欲になるもの。彩俐の反応を目の当たりにしてオランヌもフッと顔を緩めた。

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