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空色はなタンポポ様宅のヒロイン『メアリアン』を拝借して作ったお話です。
系統的には夢主コラボってやつです。
第一弾とは違ってちょっとシリアス要素の高いお話になります。



脳裏を駆け巡るのは誹謗や中傷の言葉ばかり。その言葉のどれも否定する術を彩俐は持っていなかった。
闇夜が訪れる度にあの悪夢のような光景がフラッシュバックする。途方もない喪失感と虚無感に苛まれる。
どこか虚ろな目をしたままぼんやりと窓の外の空を見つめた。その色を見てあの優しい瞳の色を思い出す。


もう届かないことは理解している。


それは目の前で永遠に失われてしまったのだから。たった一度、一回きりの失態で失くしてしまったのだ。
あのとき死ぬべきだったのは自分だった。否、べきではなくて事実、助けられたから生き延びた。代理だ。


突き飛ばしたりなんてしなければ、


振り向きなんてしなければ。


(・・・・・狂ったりなんてしなかった)


運命の歯車は正しく動いた


一つの命を代償に、一つの命が生き延びた。たった一匹の命が、一人の人生を大きく狂わせ始めたのだ。
失くしたくなかったのに。いつか受け入れられるその日が来た時、否応でも手放すのだろうと分かっていた。
永遠なんて存在しない。だけど今はまだ一緒に居られると信じて止まなかった。いつかは未だの筈だった。


「・・・え・・・して・・・」


ぼんやりとしたままその唇が小さく刻んだ。闇夜に溶け入りそうな小さな囁きは幾度もその言葉を紡いだ。
「返して」、と。まるで呪詛のように唱える。何も要らない。それ以外何ひとつとして望まない。だから返して。


たった一つだけ――。


 


「貴方が・・・・私を呼んだのか?」


そう尋ねたメアリアンをどこか虚ろな眼差しで一瞥した後、彩俐は緩慢な動作で視線をまた外へと戻した。
召還者は女の子だった。声がして、それに応えるべくメアリアンは姿を現したが、彩俐は願う様子はない。
それどころかメアリアンの出現に動揺もせずむしろ興味すらないようだった。無気力で空虚な子だと思った。


ふと周囲を見渡せばそこが文明が進んだ世界だと知る。否、ある意味、遅れていると言えるかも知れない。
気を読めばそこに魔力が存在しない事を知る。それに並ぶ不思議な力は満ちている様だがまた違う代物。
『声』を頼りにこの世界に降り立ったが彩俐はメアリアンに見向きもしない。少し考えてから溜息を漏らした。
厄介な事に彼女は無意識に願ったのだろう。だが意図したものでないから心がメアリアンを受け入れない。


(・・・面倒だな)


内心 歯噛む


この手合いが一番厄介だ。意識的に望んだわけではないからメアリアンを受け入れるのにも時間が要る。
視線の先の彩俐は空を見ていた。漆黒の双眸はそれこそ『絶望』と呼ぶに相応しい昏い色を宿していた。


その記憶から読み取れたのは紅。彼女が大切にその手に留めていたものが容赦なく奪われていく記憶。
読み解きながらその願いを推測するなら、彼女が望んだのは『死』か?否、違う。そんなものではなかった。
それは悲痛な声で何度も「かえして」と叫んでいた。まるで子供のように、懇願するように、何度も繰り返し。


「かえしてよ・・・・お願いやから」


不意に彩俐が囁く様に呟いた。やはり『声』の通り願いはそうなのだろうか。だが失われたものは戻らない。
彼女のささやかな願いを叶えるために出来る術など何一つない。出来るとしたら歪んだ手段を用いて、だ。
簡単なこと。問えば良い。彩俐が何を望むのか、と。それが悪魔の使いであるメアリアンに与えられた力。
それを躊躇った理由は願いを叶えたところで目の前の彩俐が決して幸せになれないことを知っているから。


悪魔やそれに従事する者と契約して願いは叶えられる。だがその代償が途方もない事は言うまでもない。
代償と引き換えにたった一つの願いを叶える人は愚かだ。だが願わずに居られないのが人という生き物。
彩俐もまた何を犠牲にしても構わないと思うほど望んだのだろう。失くしてしまった何かを「かえして」、と。


「・・・・分かった」


一度だけ彩俐に視線を向ける。本当にそれを叶えて構わないのか、と、再認するように。否定して欲しい。
心の片隅でほんの少しだけ願った。それはらしからぬ心情と分かっている。それでも願わずにいられない。
過去に自分も体感したことがある。願ったことに後悔したことだってある。だから繰り返さないで欲しい、と。


だが、彩俐の口から否定の言葉は終ぞ出て来なかった。メアリアンは僅かに目を伏せて願いを受理する。
彼女が「かえして」と願うならそれを叶えよう。たとえ代償が何であれ構わない、と。すべてを差し出すなら。
「それが・・・願いならば」と、彩俐の額にメアリアンは手を翳した。何か残すわけでもない。形式上の契約。


―― に  ・・・・・ て


不意に『声』が聞こえた。最初の時よりも薄らとした、しかし迷いを感じさせない声だ。思わず目を見張った。
それが彩俐かどうかまでは分からない。しかし、かなり強い意志を宿したそれに逆に翻弄されそうになる。
咄嗟に手を引いたメアリアンだったが、腕に何かが絡み付くのを感じた。容赦ない力に引きずり込まれる。


「!!」


一瞬、目を疑った。光に包まれた空間に彩俐とメアリアンは居た。さらさらと金色の粒が零れ落ちている。
落ちているのに浮かんでいると錯覚しそうになる。今まで数多の世界を見て来たが、見たこと無い景色だ。
離れた場所にふわり浮かぶ彩俐は目を閉じていた。眠っているのだろうか横たわる身体は浮遊している。


無意識にメアリアンは手を伸ばした。


だが、あと少しが届かない。不意に彩俐の身体を包み込むように光の粒が集束する。次第に形を成した。
最初にメアリアンの目を奪ったのは空間と真逆の色を宿した銀髪だった。そして眼帯と灰色の隻眼だった。
壊れ物を扱う様に彩俐の身体を抱き留めたそれは緩慢な動作で顔を持ち上げメアリアンを視界に捉えた。
フッと笑みを浮かべると「・・・ここは眩し過ぎる」と、音にはせずに口を動かす。そしてパチンと指を鳴らした。


世界が反転し――意識が遠のいていく。


次に目を開けた時、メアリアンが居たのは悪魔と話す際にすっかり馴染みとなった無と呼べる空間だった。
が、ここは無ではない。境目が曖昧な空間。そこで再びメアリアンはその男を見つけた。腕の中には彩俐。


「きみには感謝しているよ、メアリアン」


まるで愛しむ様に幾度もその髪を梳いて撫でながら男は言った。「きみのおかげで彼女が堕ちて来た」、と。
男がどうして自分を知るのか分からない。「それはどうも」と、礼を言われた事に答えて「誰?」と、続けた。
男は愉しげに目を細めながら「夢魔だよ。この子の悪夢を喰らう・・・ね」と、答えた。嘘を吐くなと言いたい。


「獏が夢を喰らうならまだしも、夢魔が悪夢を喰らうなんて初耳だな」


と、呆れつつ返す。彩俐と夢魔の関係性は見えない。否、分かることと言えば夢魔が彩俐に執着している。
その御執心っぷりを見ていると夢魔というよりもアレだ。むしろ変質者と呼んだ方が似合いかも知れない。


「おい、失礼だぞ!私は変質者じゃない!!」


メアリアンは何も口にしていない。しかし夢魔が不意にミステリアスな雰囲気を脱ぎ捨ててそう喚き出した。
(・・・私の声が聞こえるのか?)と、口にはせず思った。すると丁寧に「ああ、聞こえているとも!」と、返答。
「私は夢魔だからな。それが私の力だからな」と、聞いてもない事情もまで語ってくれるのだから有り難い。


「ではあらためて・・・・夢魔殿。貴方と彼女の関係は?」


それは別にメアリアンの知る必要がない事だ。が、尋ねたのは現状と照らし合わせて必要な情報だから。
確かにメアリアンは叶えようとした。代償と引き換えに、魂からの願いを。が、予期しない自体が起こった。


こんなことは今までに無かったことだ。


召還者の願いを叶えるつもりが逆に召還者に呑み込まれるなんて。あまつさえこの世界に引き込まれた。
ここはメアリアンの知る軸で無いことは分かった。夢魔の様子を見る限りではその繋がりは生半可でない。
だが記憶をざっと流し見た中で彩俐の中にこの世界との繋がりは見受けられなかった。それなのに何故。


「この世界にいるのは『特別』になれなかった半端者ばかりだ」


メアリアンの言葉にしてない部分を読み取ったのだろう。夢魔はフッと笑うとどこか自嘲気味にそう言った。
『半端者』という言葉が妙に突き刺さる様な気がした。夢魔に目を向けると彼はにこりと微笑むだけだった。


『特別』になれなかった。という言葉からのみで全て察するのは容易ではない。そもそも主語が無いのだ。
だが己の質問と照らし合わせて考える限りだと彩俐の特別になれなかったという事なのだろうか。誰もが。
つまり面識はある。否、『あった』らしい。そのことを彩俐は覚えておらず、彼も覚えてないことを知っている。


「それは答えじゃない」


「妨害はこちらとしても迷惑極まりないんだ」と、吐き捨てる様に言った。謂わば件は妨害されたようなもの。
彩俐が願った。その願いを叶えるためにメアリアンは彩俐の元を訪れた。それなのに叶え損ねてしまった。


「いや、きみはこの子の願いをちゃんと叶えているよ」


だがその言葉に対して夢魔は緩々と首を横に振り否定する。彩俐の願いは既に叶えられているのだ、と。
解せない。メアリアンはまだ願いを叶えていない。彼女は何も得ていないのだ。「かえして」と、願ったのに。
抽象的で的を得ないその言葉にメアリアンは僅かに顔を顰めた。が、当の夢魔はどこ吹く風で素知らぬ顔。


苛立つ思いを堪えてメアリアンは「彼女の願いは?」と、尋ねる。自分が知らぬことは彼が知っている理由。
それが二人の繋がりだとするなら癪ではあるが直接聞いた方が早い。「きみも聞いてる」と、夢魔は笑う。
あくまでそれに答えるつもりはないのだろう。はぐらかすような言葉に(・・・このxxxxxが)と、内心毒吐いた。
その言葉を聞いた夢魔が咳き込んだ。それだけならまだしも遂に吐血した。「汚っ!!」と、思わず避ける。


「ひ・・・酷いじゃないか!!」 「いきなり吐血するのとどっちがですか!」


もともと色白の印象だったが、どうやら色白なのではなくて顔面蒼白だったらしい。口元を赤い血が伝った。
どうにか彩俐の上に吐血することだけは回避したようだがハンカチで口元を押さえるその顔色は真っ青だ。
恨みがましく呟く夢魔にメアリアンはやや引き気味に返した。突然過ぎて驚いたことは決して否定しない。


「きみが暴言を吐かなければ血も吐かなかった!今のはきみが悪い!!」


と、逆切れされて対応に困る。まるで幼稚な言い分に反論する気力も殺がれてしまった。一気に脱力する。
「それで・・・彼女は何なんですか?」と、半ば自棄気味だ。不意に夢魔は笑って言った。「は?」。聞き返す。


 


『 彼 女 は    だ よ 』


その声を最後に、意識は再び闇へと沈む。


 


 

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