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第三話(途中まで)
やっと領土が決まりそうな雰囲気。
知り得た情報を縫い合わせるには労力が要る。案の定、侯爵夫人が居るから、滞在は断られてしまった。
この国には12人の役持ちが存在する。帽子屋・三月ウサギ・双子・キング・時計屋・侯爵・チェシャ猫・騎士。
ちなみに騎士は城でなく時計塔の、だ。これでまず9人。まだ会えてない芋虫と、二人の女王。これで12人。
『荊棘の女王』もとい『アリス』の孤独に引き寄せられてしまった壊れた時間。彼等のゲームは始まらない。
カードの配布は不平等だ。ハートの城には、キングとハートの女王。帽子屋屋敷には双子と帽子屋だけ。
時計塔には、居る筈のない騎士が居る。侯爵邸には侯爵と飼い猫のチェシャ猫。そして、逃げ惑うウサギ。
だが、一慨に悪いとは言えない。
『アリス』の孤独に引き寄せられた時間達は皆、幸せの欠片を握っているから。それを否定出来なかった。
仲の睦まじいハートのキングと女王。姉と会う事を許されている帽子屋。親友と共に居られる三月ウサギ。
時計屋を慕うのを許されているエース。侯爵邸には夫人が居て、侯爵もチェシャ猫惜しみなく愛されている。
彩俐の知っている軸ではどう奮闘しても取り戻せない。誰もがいつかに失くした幸福の肖像がそこに在る。
――否定なんて出来ない。
(あかんこと・・・なのかな?)
思ってしまう
停滞した時間であることは分かった。だからこそ、進むことが無い。終わりが訪れない狂った軸なのだ、と。
『アリス』の孤独を代償にある種の理想で成り立っている世界ともいえる。喪失がそこには存在しないから。
この時間を否定することが出来ないのは、彩俐もまた、喪失を知っている身だからなのか。否定出来ない。
『確かに悪くねぇよ。でもな、この時間に馴染めない奴が居るのは事実だ』
しかし、ゴーランドは停滞した時間を正しいとは言わなかった。軸に馴染めない者も存在しているのだ、と。
確かに正しいとは言えない。ゲームに参加出来ない事は、この世界において、とても困ることなのだから。
否、それ以上にきっとゴーランドはアリスのことが大切なのだ。たとえ、アリスが『アリス』になったとしても。
この世界は――『アリス』の孤独で成り立っている。
その事実がある限り、軸に馴染めない者が現われても当然なのかも知れない。だって、アリスは愛される。
アリスが『アリス』になったとしても、きっと、それは変わらない。誰も『アリス』を無視する事は出来ない筈。
だって彼女はこのWWWでたった一人の余所者だから。たとえ時が移り変わって変化してしまったとしても。
「・・・・・結局ここか」
肩を竦めて長い階段を見上げる。ハートの城を訪れたが、あまりに仲睦まじい二人に圧倒されてしまった。
そんな二人の愛の巣に邪魔出来る筈も無い。そして結局、戻って来たのは暮らし慣れてる時計塔だった。
『アリス』の領土には行かなかった。
待っている、とは言われた。でも、どうしても行くことを憚られた。別に『アリス』が嫌いというわけじゃない。
だけど、そこに行ってしまったら何となく戻れない気がした。一応、『アリス』の領土の直ぐ傍までは行った。
ただ、踏み込む事は出来なかった。ほぼ直感だと思う。彩俐は己の勘に従って領土を訪ねる事を避けた。
そして、時計塔に戻って来た。
此処なら、常識人のユリウスが居るから自由に動き易いと思う。ただ、この階段をもう一度登るのは辛い。
果てしなく長い階段の先を仰ぎ見て空笑いが浮かんだ。エレベーターの設置を検討してくれないだろうか。
「彩俐」
不意に声が掛かった。その声に反射的に振り返った。ことを少しだけ後悔した。そこには『アリス』が居た。
領土を避けた気まずさがあるが『アリス』は気にした風でも無く「・・・やっぱりね」と、言った。手を引かれる。
「・・・『アリス』?」
その手を拒絶はしない。『アリス』の意図が掴めなくて首を傾げた。「此処に戻ると思っていたわ」と、一言。
どうやら時計塔を選ぶのを読まれていたらしい。「貴女が私の領土を避けることも・・・ね?」と、微笑まれる。
責めるわけでもなく事実を告げる『アリス』に余計に居心地が悪くなる。覗き込まれて思わず視線を外した。
「いいのよ。だって、仕方ない事だわ」
「余所者の貴女にとって、あそこは忌避すべき場所だわ」と、気にした様子も無く『アリス』は言葉を繋いだ。
丁寧に説明してくれているようで余計ややこしい。抽象的な表現だから。いくら聞いてもまるで分からない。
「どういう意味?」
言葉の真意を探る様に尋ねれば、隠すことも無く『アリス』は口を開く。「終端の地だもの」と、簡潔な言葉。
「私には似合いの場所でしょう?」と、自虐というわけでもなく、ごく当たり前に『アリス』はそう言って笑った。
アリスを知っている彩俐だからこそ、そんな風な言い方を選んだのか定かではない。が、言葉に詰まった。
「えぇ、好きよ。やっと叶ったんだもの」
その領土が好きなのかと尋ねると、『アリス』は恍惚とした顔でそう答えた。「嫌いになれる筈ない」、とも。
アリスが求めていたのは、終わりだ。否、終わりだけでは無い。始まりも終わりも無い。終端の物語だけ。