ネタ帳
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乱世(3軸)・其の弐
――抜き身を手にしたまま呆然と床に伏すその人を見つめる三成。そんな三成の隣で静観する大谷。まるで想定外だったかのように大きく目を見開いて僅かに拳を握り締めた家康。そして彩俐の目に悲しいほどに鮮明に映ったのは赤く染まり倒れていたその人だった。
「…あねうえ…?」
場内の奥間に飛び込んだ彩俐が最初に目にしたものだった。その漆黒の双眸から光が消え去る。呆然と姉に近付きしゃがみ込んだ。そして乞うような眼で三成と家康を見比べる。責めているわけではない。しかしおぼつかないその眼はまるで置き去りにされた子犬のように頼りない。
三成は自責の念に囚われるのを感じた。常に気丈で朗らかである己の妻である彩俐が初めて見せた顔であった。この乱世において肉親と死に別れるのは悲しきかな常だ。だとして、心砕いた者がその状況におかれた時、三成とて心を痛める。否、理由はそうではなく、千尋が死に至った原因が己にあったからだ。己の戦装が赤く染まるのも気にせずに彩俐は抱きすくめた。
喪失感と悲壮。言葉では言い表せない感情が場を取り巻く。刹那、不意に大谷が口を開いた。「…ぬしも酷な男よなぁ」・・・家康、と。その言葉に思い当たる節があったのか家康は眉を顰めた。その言葉に彩俐が小さく肩を揺らして反応する。その言葉から、その態度からその状況を察するにはた易い。たとえそれが偽りの真実であったとしても。己の陣羽織を姉に羽織られる。昔はよく抱き上げて貰っていたのに刀を振るう内にいつの間にか自分が姉の体を抱き上げられるようになっていた。それをこんな時に思い知るだなんて酷だ。
「彩俐…「…家康」」
聞いてくれ、と、いいたかった。この状況で何を口にしたところで言い訳にしかならないと知っている。千尋を亡くす切欠が家康であることに変わり無くもう取り戻せない無いのだ。家康の言葉を遮り彩俐が小さくその名を呼ぶ。うつむき加減でその表情は読み取れない。酷く静寂に満ちた声調だった。それを薄ら笑んで見つめる大谷と戸惑いがちに様子を伺う三成。確かな怒気を感じた。それは冷たく張り詰めていた。少しでも触れようものならば一瞬にして切り裂かれてしまいそうなほど鋭い。
彩俐が顔を上げた。そこに浮かぶ色が無であったことに家康は思わず驚愕する。家康の知る逢隈彩俐は朗らかに笑っていることが殆どであった。飄々とした態度に朗らかな笑顔、そして、少し高く凛と響いたその声が己の名前を呼ぶ。その過去とあまりにも異なる今に家康は言葉を失う。その漆黒の瞳は薄昏く光り家康を見据える。不意に彩俐が己の利き腕である右腕を微かに動かした。瞬時に家康も臨戦態勢に入る。できれば親友である彼女と刀を交えることはしたくない。
されども――
「っ・・・!!」
その剣j撃がいつ打ち込まれたものなのか理解出来なかった。気付けば彩俐は家康の眼前に居て己の拳は振り下ろされたその刀を受け止めていた。三成までとはいかずとも彩俐が居合いの達人である事は知っていた。何度か手合わせをした事もあった。その戦う姿を戦場で見たこともあった。が、こうも荒々しく留まる事を知らない怒気を募らせた刀を見たのは初めてだった。その表情を垣間見る事はできない。しかし彩俐の唇が何かを刻んだ。
『 ど う し て 』
その言葉を理解したとき泣いているのではないかと思った。あまりにもか細く、そして、弱弱しい言葉だった。それに答える為に口を開こうとした家康。だがその剣撃は激しくなるばかりで口を開く暇すら与えてくれない。その小柄な体のどこからその力が秘められているのかわからない。不意に彩俐が身を引いて距離を置いた。少しの暇に油断したのがいけなかったのだろう。気付いた時には既に避けられないだろう距離にまでそれは迫る。
「散れ」
そう呟いた彩俐の瞳は冷たく家康を見下していた。その技は千尋がとても気に入っていた事を知っている。よく強請られてその度に困ったように彩俐が肩を竦めて笑いながら見せていた日を今も鮮明に覚えている。"桜宴"――風のばさらを利用した彩俐の技のひとつだ。巻上げるように桜の花弁が舞う。そして鋭い一閃が家康を貫くべく距離を縮めた。
が、
「本田…忠勝」
その漆黒の双眸が苛立ちを孕んで細められた。家康の前に立ちはだかりそれを真っ向から受けたのは戦国最強と謳われる男だった。沈黙のままに悠然と佇むその姿に今度こそ彩俐は苛立ったように口を開いた。否、迸る怒気を押し殺そうとしているのか低くそして簡潔に言葉は紡がれる。「どけ」という一言に忠勝は応える事もなく己の主君たる家康を護るべく立ちはだかる。
「…あねうえ…?」
場内の奥間に飛び込んだ彩俐が最初に目にしたものだった。その漆黒の双眸から光が消え去る。呆然と姉に近付きしゃがみ込んだ。そして乞うような眼で三成と家康を見比べる。責めているわけではない。しかしおぼつかないその眼はまるで置き去りにされた子犬のように頼りない。
三成は自責の念に囚われるのを感じた。常に気丈で朗らかである己の妻である彩俐が初めて見せた顔であった。この乱世において肉親と死に別れるのは悲しきかな常だ。だとして、心砕いた者がその状況におかれた時、三成とて心を痛める。否、理由はそうではなく、千尋が死に至った原因が己にあったからだ。己の戦装が赤く染まるのも気にせずに彩俐は抱きすくめた。
喪失感と悲壮。言葉では言い表せない感情が場を取り巻く。刹那、不意に大谷が口を開いた。「…ぬしも酷な男よなぁ」・・・家康、と。その言葉に思い当たる節があったのか家康は眉を顰めた。その言葉に彩俐が小さく肩を揺らして反応する。その言葉から、その態度からその状況を察するにはた易い。たとえそれが偽りの真実であったとしても。己の陣羽織を姉に羽織られる。昔はよく抱き上げて貰っていたのに刀を振るう内にいつの間にか自分が姉の体を抱き上げられるようになっていた。それをこんな時に思い知るだなんて酷だ。
「彩俐…「…家康」」
聞いてくれ、と、いいたかった。この状況で何を口にしたところで言い訳にしかならないと知っている。千尋を亡くす切欠が家康であることに変わり無くもう取り戻せない無いのだ。家康の言葉を遮り彩俐が小さくその名を呼ぶ。うつむき加減でその表情は読み取れない。酷く静寂に満ちた声調だった。それを薄ら笑んで見つめる大谷と戸惑いがちに様子を伺う三成。確かな怒気を感じた。それは冷たく張り詰めていた。少しでも触れようものならば一瞬にして切り裂かれてしまいそうなほど鋭い。
彩俐が顔を上げた。そこに浮かぶ色が無であったことに家康は思わず驚愕する。家康の知る逢隈彩俐は朗らかに笑っていることが殆どであった。飄々とした態度に朗らかな笑顔、そして、少し高く凛と響いたその声が己の名前を呼ぶ。その過去とあまりにも異なる今に家康は言葉を失う。その漆黒の瞳は薄昏く光り家康を見据える。不意に彩俐が己の利き腕である右腕を微かに動かした。瞬時に家康も臨戦態勢に入る。できれば親友である彼女と刀を交えることはしたくない。
されども――
「っ・・・!!」
その剣j撃がいつ打ち込まれたものなのか理解出来なかった。気付けば彩俐は家康の眼前に居て己の拳は振り下ろされたその刀を受け止めていた。三成までとはいかずとも彩俐が居合いの達人である事は知っていた。何度か手合わせをした事もあった。その戦う姿を戦場で見たこともあった。が、こうも荒々しく留まる事を知らない怒気を募らせた刀を見たのは初めてだった。その表情を垣間見る事はできない。しかし彩俐の唇が何かを刻んだ。
『 ど う し て 』
その言葉を理解したとき泣いているのではないかと思った。あまりにもか細く、そして、弱弱しい言葉だった。それに答える為に口を開こうとした家康。だがその剣撃は激しくなるばかりで口を開く暇すら与えてくれない。その小柄な体のどこからその力が秘められているのかわからない。不意に彩俐が身を引いて距離を置いた。少しの暇に油断したのがいけなかったのだろう。気付いた時には既に避けられないだろう距離にまでそれは迫る。
「散れ」
そう呟いた彩俐の瞳は冷たく家康を見下していた。その技は千尋がとても気に入っていた事を知っている。よく強請られてその度に困ったように彩俐が肩を竦めて笑いながら見せていた日を今も鮮明に覚えている。"桜宴"――風のばさらを利用した彩俐の技のひとつだ。巻上げるように桜の花弁が舞う。そして鋭い一閃が家康を貫くべく距離を縮めた。
が、
「本田…忠勝」
その漆黒の双眸が苛立ちを孕んで細められた。家康の前に立ちはだかりそれを真っ向から受けたのは戦国最強と謳われる男だった。沈黙のままに悠然と佇むその姿に今度こそ彩俐は苛立ったように口を開いた。否、迸る怒気を押し殺そうとしているのか低くそして簡潔に言葉は紡がれる。「どけ」という一言に忠勝は応える事もなく己の主君たる家康を護るべく立ちはだかる。
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