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単発・ザビーに出会いました。其の壱

「バテレンさん・・・?」

邸内が妙に慌ただしいと思えば客人が訪れるらしい。いつもならば静かな邸内がこうも騒々しければ否が応でも彩俐とて気になる。若山に尋ねたところ、異国の宣教師――バテレンが逢隈家の当主たる嘉樹の元を訪れる事になったらしい。確かに父は新しい物が好きである。が、躊躇いも無くバテレンを迎えるとは懐が広いというか、好奇心が旺盛というべきか。


「ええ、大友宗麟殿の紹介で嘉樹様に御目通り願いたいとの事です」

以前から嘉樹は豊後の領主である大友宗麟と交友があった。国益となるならば異教徒の取り入れる文化もまた良いだろうという考えの嘉樹と彼の異教徒に心酔している宗麟は気があったらしい。長く文のやり取りをしていたが、その中で此度の謁見が取り成されたらしい。そして今はその真っ只中である。

「・・・・・会ってみたい!」

若山の言葉に一瞬、黙り込んだ彩俐が不意に顔を上げてにかっと笑みを浮かべ言葉を紡いだ。思わず「はい?」と素っ頓狂な声が漏れた。確かに父親に似て好奇心が強い娘であることは知っていたが、異国のバテレンなどに会ってどうするつもりなのだろうか。むしろもっと保守的な娘だと思っていたのだが。

「彩俐様・・・?」 「やから・・・そのバテレンさんに会いたいの!」

再認するように若山が呼びかければ業を煮やしたのか彩俐が声をあげた。どうやら気紛れでは無く本気で会いたいらしい。しかし今は謁見の最中であり、流石に乱入というわけにもいかないだろう。それに幾ら彩俐が知的好奇心が強かろうと決定権を持つのは嘉樹である。その意見も仰がずに身も知れぬバテレンと逢隈家の二の姫を会わせるわけにはいかない。

「しかし・・・「会うの!」・・・畏まりました」

だが若山の想いも空しく結局は押し切られてしまう。誰譲りなのか彼女は一度決めると頑なとして譲らないのだから困ったものだ。一般筋が入っているといえば聞こえは良いが女子がそれでは如何なものだろう。だとして今更その性格の矯正は可能かと問われれば間違いなく不可能だ。明らかに譲る気の無い彩俐に若山は諦めたように恭しく頭を下げた。





「・・・彩俐が?」

ザビーと名乗る宣教師との謁見を望んでいることを部屋から出た嘉樹に告げた。件のバテレンは暫らくの間、
邸内に滞在するらしい。暫らく思案した後、嘉樹はすぐ表情を緩めると「良い経験だから」と許可を出した。その真意は読みとれないがその目でザビーというバテレンを見て娘が会っても支障はないと認識したのだろう。「今夜の宴に参加させると良い」とあっさり告げる。

「畏まりました。そのようにお伝えします」

その言葉に若山は頭を垂れる。そして彼の幼い主君の元へと足を運んだ。きっと彩俐は隠すこと無く嬉しそうに微笑んで悦ぶのだろう。容易に想像出来たその様に廊下を歩む若山の表情が自然と緩んだ。主君にこんな感情を抱くのは不謹慎かも知れないが、今は会う機会の減った妹を見ているようで微笑ましい。

(そしてザビーが出なかった!)

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